20年、Jリーグには過去最多となる1626人もの選手が登録された。今や56クラブを抱える一大組織となったJリーグ。プロ入りへの裾野が広がり、Jリーガーへのハードルは以前より低くなった一方で、その中で繰り広げられる競争は、今まで以上に厳しいものになったと言える。

輝かしい実績を残し、多くのファンに惜しまれながら引退することができる選手は、果たして何人いるだろうか。それ以外の選手たちには、どのようなキャリアが待ち受けているのだろうか。

慶大から16年に当時J1だったアルビレックス新潟へ入団し、昨季は町田ゼルビアでプレーしたMF端山豪(27)は3月、オーストラリア2部相当のシドニー・オリンピックFCで新たな挑戦を始めた。今冬に契約満了を迎えてから移籍に至るまでの思考とこれから始まる挑戦には、彼なりの思いと理由があった。Jでのオファーもあった中、オーストラリア2部相当を選んだ理由とは。

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契約満了を迎えたこの冬、端山はアスリートとしてのキャリアや存在意義と真剣に向き合っていた。これまでピッチの上での活躍に全てをささげてきたが、一度立ち止まって自分自身を見つめ直すきっかけとなった。プロに入ってはや4年が過ぎていた。「4年という時間は短くない。期待してもらってプロの世界に入った。もっとプレーをして、活躍しなければいけなかったと思っている。全て自分の責任」。大勢のファンはもちろん、獲得してくれた地元・町田のクラブに対しても、顔向けできない結果であったと自覚していた。選手としてまだできるという思いを持ちつつも“契約満了の通達を受けたのは自分の力不足”という事実を整理する中で、「選手としてはもちろん、一社会人として、練習や試合といったピッチ上での活動以外でもより一層成長する必要性を感じた」。このことが、海外という選択をする大きな理由となった。

とはいえ、環境が勝手に自分を成長させてくれるわけではない。ピッチ内外でのさまざまな活動をすることで、刺激を得たいという。「海外での厳しいチャレンジと同時に、これまでに感じてきた課題や次世代の選手たちへのアプローチをすることで、自分自身ももっと成長したい。同時に27歳の一社会人としての取り組みを発信することで、現役選手はもちろん、次世代のアスリートたちを中心とした多くの人が、自身のキャリアを考えるきっかけになれないか」。端山はここに、自身の挑戦と存在意義との交錯点を見いだした。

端山は、サッカー選手を目指す次世代の選手たちに「思いきって挑戦して欲しい」という思いを抱いている。「厳しい世界なのは身をもって経験している。当然無責任に勧められはしないが、他で得ることのできない経験が得られることは保証できる。もし迷う選手がいるとしたら、プロでの経験や時間が自分にとって、また社会にとってどんな意義があるのかを示すことで、少しでも背中を押すことができると思う」。慶大卒の27歳。当然、サッカー以外の道を選ぶこともできた。そんな自身があえて難しい挑戦を選ぶことで、少しでも多くの人に影響を与えられないか。同時にそれが、自身の“ピッチ外での成長”につながると考えた。

事実、端山は能力がありながらその道をあきらめた人を、何人も見てきたという。引退後の想像ができないことが、プロを目指す上でのハードルになっているというのだ。前述の「これまでに感じてきた課題や次世代へのアプローチ」とはこのこと。端山自身も、東京ヴェルディユース時代に進学とプロへの挑戦を悩んだ経験があり、自分ごとのように共感できると話す。「日本のサッカー界は、もっと人材のポテンシャルを生かせる可能性があるのではないか。そういう人たちが少しでも前向きにJリーガーを目指せるように、自分に何ができるかやってみようと思った」。プロに進むことが良い、進まないのが悪い、ということではない。プロを目指さなかったことを後悔する人たちがいる事実が、残念だった。プロ選手として得られる経験や引退後の価値を証明することで、この課題を解決できないか-そこに一石を投じたい思いが芽生えた。それは、自身の経験が突き動かした思いだった。

当然、サッカー選手としての挑戦にも高いモチベーションを保っている。オーストラリアで結果を残して国内でステップアップし、その先のACLに出場することを目標に掲げている。いずれは再びJリーグの舞台でプレーしたいとも思っているという。だがオーストラリアでは、プロサッカー選手としての活動以外にもさまざまなことに挑戦するつもりだ。自分が成長することで、アスリートの価値を社会と次世代に示すため-。文字通り、チャレンジの日々が続く。

「僕は周りの環境にとても恵まれたおかげで、心置きなくチャレンジができた。安定か夢かという二択を迫られた時、一人でも多くの人に、夢の方へと最初の一歩を踏み出してほしいと思う。ひいてはそれが、サッカー界の発展につながるとも考えている。だから今後は自分のキャリアを通じて、Jリーガーを目指す人には『プロを目指す過程やプロになってからの経験を通じて素晴らしい財産を得られること』、現役選手には『サッカーやこれまでの人生で得た学びを他のことへ変換、還元できること』を示していけたらと思う。そうして、1人でも多くの人が挑戦できる土壌づくりに貢献したい」

自身の成長と日本サッカーの未来のために-。まもなく冬を迎えるオーストラリアで、挑戦は続いていく。【杉山理紗】