サッカー日本代表が活動場所に選んだドイツ・デュッセルドルフで、美容師として活躍する日本人がいる。美容室「YODA」を経営する要田和紀さん(42)。開店して9年目。日本代表DF酒井宏樹やMF伊東純也ら選手を担当し、森保一監督も欧州視察などで渡欧した際には訪れる。W杯カタール大会を目指すチームに間近で触れ「何かやってくれるんじゃないか、と思わせてくれます」と、選手がまとう自信を感じている。

サッカーとの縁は、フランクフルトで働いていた09年にさかのぼる。居酒屋で知り合った日本人が、当時Eフランクフルトに所属していた稲本潤一のマネジャーだったことがきっかけ。そこから稲本が来店し、選手の紹介で輪が広がった。酒井とは特に長い付き合い。ハノーバー時代からの仲で、マルセイユに在籍した期間は月に1度、デュッセルドルフから出張した。

美容師の仕事は初めから順風満帆ではなかった。日本人の来店はあったが、ドイツ人が来なかった。それでも経営を続けることはできた。ただ、「ドイツで仕事をする以上、現地の人に認められなければ」という思いがあった。

酒井が欧州サッカーに順応できたのはなぜだったのか。気になって聞き、返ってきた言葉が転機になった。

「日本は何でもある程度できる人が評価される。だけど欧州では、1つ何か飛び抜けたものがある方がいい」

自分に置き換えた。他の美容室にはないものを-。美容師と並行して展開していたアパレル事業に目を向けた。地元・福井でしか手に入らない越前和紙を使ったシャツなどを手がけ、美容室だけでなくパリなどで積極的に展示会を行った。すると各地の芸術家が訪れ、自身が美容師だと話すと「おもしろいことをしているね」と声をかけられた。雑誌にも紹介されるようになり、一気にドイツ人の来客が増えた。

日本代表はサッカーを超えて、欧州で戦う人に力を与えている。要田さんも選手と間近で接し、感じるところがある。「みんなそうなんですが、顔が変わっていくんです。はじめはあどけない兄さんのような感じだったのが、野性的にというか、どっしり構えるような雰囲気になっていく。選手はドイツにも全然びびっていませんよ。そんな集団ですから、何かやってくれるんじゃないかと思います」。日本を飛び出して働く人の思いも背に、日本代表はW杯に向かって前進する。【岡崎悠利】

◆デュッセルドルフ 国内16州で最大人口のノルトライン・ヴェストファーレン州、州都。在住日本人は約8500人(令和元年の外務省より)で、欧州では最大級の日本人街。ルール工業地帯産業都市として発展し、日本からは1950年代から三菱商事などが続々と参入。66年には日本商工会議所ができ、現在も約400の企業がオフィスを構えている。中心地には「インマーマン通り」と呼ばれる“日本人通り”も。看板はカタカナ表記が追加され、飲食店も「居酒屋」「すし店」「お好み焼き」と日本語が並ぶ。地元観光局も「リトル・東京」と銘打ち、旅行者などに紹介するスポットにもなっている。日本協会も代表チームに欧州クラブ所属の選手が増えたことを受け、20年10月にオフィスを置いた。(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

デュッセルドルフで美容師として活躍する要田さん
デュッセルドルフで美容師として活躍する要田さん
日本代表が活動している練習場
日本代表が活動している練習場
日本代表が活動しているデュッセルドルフ町並み
日本代表が活動しているデュッセルドルフ町並み
日本代表が活動しているデュッセルドルフの町並み
日本代表が活動しているデュッセルドルフの町並み
日本代表が活動しているデュッセルドルフ町並み
日本代表が活動しているデュッセルドルフ町並み