J1横浜F・マリノスのGK飯倉大樹(32)が5日、かつて横浜でもプレーした元日本代表GK川口能活(43)の引退を惜しんだ。

小学生の頃から横浜の下部組織でプレーし、中学時からGKに転向した飯倉にとって、同じポジションの大先輩でもある川口は「憧れの存在」だった。身長はGKとしては決して大柄ではない180センチの川口とほぼ同じ181センチ。そのプレーを常に参考にしていた。「マリノスの育成、下部組織にいて、日本代表の川口能活選手はすごく憧れだったし、目指すべき人というのはずっと思っていました。マリノスというクラブでプレーして、海外に挑戦してという生き方というのがすごく印象に残っている。川口能活さんという色の強い選手が引退してしまう寂しさはすごくあります」。

川口のプレーで最も参考にしたものに飯倉は「パントキック」を挙げた。パントキックとはGKが手で保持したボールを地面に落とさずにキックする技術のこと。ボールをワンバウンドさせ、その上がり際を蹴るドロップキックと違い、低い弾道で狙った場所にボールを送りやすい蹴り方だ。現在のGKにはボールを6秒以上保持すると相手に間接FKが与えられる“6秒ルール”というものがあるが、川口が横浜で頭角を示した90年代には、ボールを保持したまま4歩以上歩いてはいけない(00年のルール改正で廃止)というルールもあり、ボールを保持した場所からあまり動かずにボールを蹴るGKが多かった。

飯倉は「あの人(川口)は中間距離のキックの精度がすごく高かった」といい、「昔のGKってドロップキックとか前蹴りみたいなのが多かったけど、横向きのブーメランキックみたいなのを始めたのは、俺は能活さんかなと思っている。あの人のキックの仕方とか、精度をまねてすごく練習した。GKになって一番練習したのはそこかもしれない。そういう革命的な、今までになかったGKの概念を変えてくれた人」と話した。

今の横浜ではGKからパスをつないでビルドアップするサッカーに取り組んでいるが、守護神としてそのサッカーを支える飯倉の頭の中には今でも川口の姿が残っている。基本的には短いパスでDFへとつなぐが、たまにパントキックなどで裏のスペースを狙って蹴ることもあるといい「能活さんのパントキックのうまさ、あの人が変えたところから自分もそういう練習をしているから、カウンターで裏を狙ったりしている。今、パントキックのうまい全ての選手のルーツは能活さんにあると思うし、それを当たり前にしていった先駆的な人だと思う」。

飯倉は05年にトップチームに昇格。当時、川口は5年間の海外生活を終え、国内復帰の地としてジュビロ磐田を選んだ頃で、同じチームで共にプレーすることはなかった。それでも飯倉は少し笑みを浮かべながら「憧れの人ってそういう方がいいじゃん。GKだからこそ交わらなくてよかったというか。選手としてライバルとしてよりも、憧れの選手という位置付けで、すごくきれいに能活さんが見えるから、それでいいのかなと思います」と話した。