今季限りでの引退を発表したセレッソ大阪の元日本代表FW大久保嘉人(39)の引退会見が22日、大阪市内のホテルで行われた。

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試合後、スパイクについた土をきれいに落とし、子犬を抱くように靴袋にしまっていた。国見高1年の大久保を初めて取材した日は言葉よりその丁寧なしぐさを覚えている。「これ、かっこいいでしょ?」とニコニコしていて親しみやすい。熱くなりやすいプレーとはずいぶん印象が違った。決して裕福ではない中、父克博さんが買ってくれたスパイクを、家族を大切にしていた。

小学校を卒業後、福岡・苅田(かんだ)町の親元を離れ、長崎・国見中で下宿を始めた。さみしかっただろう。たまに母千里さんが訪れた。ただそこは思春期。サッカー部の仲間がいる前での親子関係はちょっぴり難しく、会話は少ない。夕方、学校近くの多比良(たいら)港から千里さんを乗せたフェリーが離れるとき、自転車を全力でこぐ大久保の姿があった。「お母さ~ん、ありがとう~」。夕暮れの港に響く大きな声で、千里さんには全部が伝わっていた。

病と闘った亡き父との絆、妻莉瑛さんと4人の子どもたちとの絆はテレビ番組などでも知られるところ。ピッチ内外でやんちゃな一面を見たこともあるが、守るものは守る。ベッカムらを相手にやり合っていたマジョルカ時代。取材でお邪魔した自宅に漢字の「宿」を縦に破ったような絵に「これは何でしょう? あなたの家の中にあるものです」と書かれたファクスが日本から届いていた。

交際中だった莉瑛さんによるなぞなぞで、「答えはビリヤードですよ」と照れていた。定期的に届くお題をリビングにある下棚が透けて見えるガラステーブルの中に大事そうにしまっていた。

「荒さ」にまつわるワードで語られることが多いのかもしれないが、ふと湧き出てくる優しさが彼の魅力だと思っている。【押谷謙爾】