青森山田高からプロ転身2年目、黒田剛監督(53)率いる町田がJ1初勝利を挙げた。パリ五輪世代のFW藤尾翔太(22)のゴールを守り切り、アウェーで名古屋を1-0と下した。前線からのハードワークを基調とした堅守速攻で「ウノゼロ(1-0)」を完結。オリジナル10相手の開幕2試合で勝ち点4をつかみ、昇格1年目クラブが台風の目となりそうな勢いだ。

勝負師は相好を崩さなかった。町田GK谷がクロスボールをキャッチすると、試合終了を告げるホイッスルが鳴る。黒田監督はスタッフ陣とハイタッチこそ交わしたが、表情が緩むことはなかった。歴史的1勝の喜びは胸の内にとどめた。

「クリーンシート(無失点)でいけたことはすごく評価したい。ゼロにこだわるチームづくりをしている以上、こういうゲームをものにするのは大きい」。イタリアのカテナチオさながらの1-0の勝利は、美学に基づくものだった。

妥協のないハードワークが一丁目一番地。前線からボールを追い、球際は激しく。決勝点を挙げた藤尾の走行距離は12キロに到達。この試合で最も走った。最前線に立つFWが動くことで後ろも連動し、相手のプレーに制限をかけていく。象徴的な場面は後半42分。最後尾で名古屋MF米本がパスの出しどころに迷うと、すぐさま藤尾が奪った。米本はたまらず藤尾を押し倒し、決定機阻止の一発レッド。勝負は決した。「高い位置からのプレスがはまったし、後ろも集中していた。大きいピンチはなかった」。指揮官の掲げるリアリズムは高校サッカーのみならずプロでも普遍だった。

青森山田高を常勝軍団に育て上げた。その過程で現実的な考えを色濃くした。試合前には神社を参拝し、自らの心と静かに向き合う。一喜一憂はしない。漠然とした自信という言葉を嫌い、日々リスクを排除する作業に没頭する。代名詞のロングスロー戦術も、オフサイドがないルールの特性を突く概念から。周囲の雑念に踊らされず「したたかに戦う」と肝に銘じる。

開幕戦のG大阪(1-1)に続くオリジナル10との対決で勝ち点4を手にした。「クラブの新しい歴史の一歩をつかめたのはうれしい」。一方で「ここで連勝してくるチームもある。引き離されないようにしたい」と上を見据える。まだ1勝、足元をしっかりと見つめながら歩を進めていく。

【J1】神戸-柏、名古屋-町田、鹿島-C大阪、FC東京-広島など/スコア速報