サッカーのFIFAワールドカップ(W杯)カタール大会で日本は強豪ドイツに逆転勝ちし、最高のスタートを切った。27日に1次リーグE組第2戦でコスタリカと対戦する。

ドイツ戦を前に、金髪から赤髪に進化した日本代表DF長友佑都(36=FC東京)は“日本”を頭に込めていた。左の側頭部、左の眉毛にライン。2本のそり込みは、日本を表現していた。ドーハで、日の丸ヘアをデザインしたのは、東京で美容院を営むカリスマ美容師。現地で、林勲さん(45)に話を聞いて来た。【取材・構成=栗田尚樹】

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林さんは、笑顔で言った。「長友選手の頭に、線が2本入っているのをご存じですか?」。よく見ると、赤く輝く髪の毛には、左の側頭部に1本のライン。そして、左の眉毛にも、そり込みが入っていた。「(長友から)出来たら2本入れてほしい」というリクエストがあった。2本は日本を意味する。長友の思いだった。林さんは「眉毛の部分も、3試合は余裕で持つんじゃないですかね」。整えられた2本と、悲願のベスト8以上を目指す。

日の丸も頭に入った。長友からのリクエストは「日の丸の赤がほしい」だった。頭頂部などに、純粋な日の丸をデザインすることも可能。23歳の時に、美容師のコンテストで、世界3位にも輝いた林さんは「(長友が)『日の丸です、日の丸です』って言っても、うのみにして、マルにしたら、かっこよくなくなっちゃう(笑い)。駆け引きが難しい」。“VIP客”と“カリスマ美容師”との攻防。林さんは「最後は俺に任せて」とカットで前髪部分に丸みをもたせ、日の丸をデザインした。

赤髪は、約1カ月前から練っていた計画だった。長友の「おもしろいのやりたい」。そのひと言がきっかけだった。グレーも候補にあった。2色使う案もあった。ただ、長友の血が騒いだ。「日の丸の赤、多くの情熱、チームメートの燃えさかる思いを表現したかった」。林さんも「(長友が)日本男児というところを表現したかった」と血が沸いた。林さんがドーハに滞在していたこともあり、22日の午前中にカット、カラーの施術が行われた。

赤髪の前は金髪。赤色をきれいに出すためのベースづくりだった。長友は日本を出国する9日には帽子をかぶり、保安検査場まで脱がなかった。11日に現地でようやく黄金ヘアをお披露目した。18年W杯ロシア大会でも金髪。この時は林さんが手がけたわけではない。SNSなどでは「4年前と同じ金髪」と話題を呼んだが、長友と林さんは「次があるのにな」と、シメシメだった。

代表随一のエンターテイナーが、4年前と同じで終わるはずがない。出国前、東京・代官山にある、林さんの美容院「Ambesten」で色を抜き、「頭皮と格闘」していた。林さんは「面白い色をしたければ、ブリーチをしなければいけない。だからブリーチをして、出国したんです。もちろん赤を最初から入れてもいい。でも、それだと出国の時はいいけど、試合の時に赤が薄れてしまう」と説明。「痛いですよ、ヒリヒリします。本人も『もうやりたくない』って言ってましたけど(笑い)」。日本を盛り上げるために耐えた。金から赤への進化は「今回は全く頭皮とは格闘していません」と笑った。

林さんは続けた。「彼はマジで熱い。相当W杯にかけている。今回も髪を切った後に、『マジで、マジで応援してくれ。頼むよ。勲さん』って。もともと応援しているじゃないですか? それでも、念を押してくる。相当熱いですよ」とうなずいた。「ドイツ戦も『いける、いける』ってずっと言っていた」。真っ赤な髪に思いを込めた長友が、神懸かった逆転勝利を呼び込んだのかもしれない。赤き情熱を燃やし続け、コスタリカ戦でも日本の先頭を走る。

◆林勲(はやし・いさお) 1977年(昭52)2月21日、神奈川県生まれ。サッカーは未経験。小、中、高は剣道に打ち込んだ。高校卒業後、美容師の道へ。23歳の時に、世界理美容技術選手権大会で3位に輝いた。元日本代表MF中田英寿、本田圭佑などを担当し、現代表ではDF吉田麻也、MF堂安律らの髪も手がける。