【ドーハ(カタール)1日】

「僕は持ってると思ってる。自分でそれを隠そうと思ってない」

日本代表を救った男は、堂々と言い切った。MF田中碧(24=デュッセルドルフ)は「ただ思いのほか(堂安)律も持ってるなって(笑い)。あのゴールがなかったら、2点目はなかったんで」。逆転ゴールを、信じて疑うことはなかった。

あふれでる“持ってる”は、言葉からもにじみ出た。

田中 信じてたんで、自分自身を。自分がW杯で点を取るっていうのは、ちょっと前から言ってきたことなんで。必然であれば必然だし、この前は偶然ならば偶然なんすけど。今までの人生を含めて、やっぱり自分がサッカーと向き合ってきたことが、神様がご褒美をくれたのかなと思います。

持っている男には、ゴールの匂いがした。1-1の後半6分だった。同点弾のMF堂安が、ペナルティーエリア内の右からグラウンダーのクロス。田中は「律からの折り返しでワンちゃんあるかなと思って。その後、(前田)大然とか(三笘)薫さんがいたんで、何とか残るんじゃないかなと信じた」。

軌道がずれたボールにFW前田には合わず、ゴールラインを割ったかに思われた。そこにJORKER三笘がいた。懸命にマイナスのクロス。バウンドしたボールを、田中が右膝で押し込んだ。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の末に得点が認められると、子供のような無邪気な笑顔で仲間たちと喜び合った。「本当は触るか迷ったんですけど、もういいやと触って。ありがたいなと思います」。試合後に、さぎぬまSC、川崎フロンターレの下部組織から苦楽をともにした先輩の三笘へ「信じてたよ」と感謝を伝えた。

いつも、田中碧がいた。川崎F時代の18年9月15日。コンサドーレ札幌戦でJ1初出場し、プロデビュー戦で初得点を決めた。そして代表のユニホームを着ても、“持っていた”。21年10月12日のアジア最終予選のオーストラリア戦。国際Aマッチ3戦目で初先発に抜てきされ、代表初得点となる先制点を挙げた。

史上初の2大会連続の決勝トーナメント進出を決定づけた“持ってる”男。「気持ちで決めたゴールか」と問われると言った。「気持ちじゃないっすね」。必然のゴール。“持っている”思いを吐き出した。

田中 前回コスタリカで負けて、いろんな選手がいろいろ言われてるのを見て、正直腹が立つところがありました。同じ国民なのになぜ一緒に戦ってくれないんだと思いました。だからこそ見返してやるとは思ってないですけど、もう1回勝って全員で次のステージに上がりたいと思った。そういう意味では、どれぐらいの人が見てくださいましたか分からないですけど、勝って、また次の試合に向かって全員で挑めるチャンスを自分たちでつかみ取ったんで。

ベスト8へ-。“持ってる”田中碧が、偶然ではなく、必然の歴史を紡ぐ。【栗田尚樹】

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