昨年12月、Rマドリードのロナウドの「バロンドール」受賞が決まった時、ポルトガルのW杯制覇はないと確信した。悲願の世界一を目指した世界最高の選手は、今大会でも「バロンドールの呪い」から逃れることはできなかった。

ウルグアイ対ポルトガル チームメートにサムアップするロナルド(撮影・PNP)
ウルグアイ対ポルトガル チームメートにサムアップするロナルド(撮影・PNP)

 フランスのサッカー専門誌「フランス・フットボール」が56年に創設した「欧州年間最優秀選手賞」。95年から対象が欧州クラブ所属選手となり、07年から全世界の選手に広げられた。事実上の「世界最優秀選手賞」だが、W杯前年の受賞者のチームは翌年のW杯に勝てないという呪いだ。

 前回ブラジル大会の前年もロナルドが受賞したが、ポルトガルは1次リーグで敗退。10年南アフリカ大会ではメッシのアルゼンチンが、06年ドイツ大会でもロナウジーニョのブラジルがともにベスト8で消えた。悲惨だったのは、98年フランス大会のロナウド(ブラジル)と94年米国大会のバッジオ(イタリア)。ともに決勝まで行ったが、ロナウドは直前に体調を崩して惨敗、バッジオはPK戦で外して優勝を逃した。

 過去15人いるW杯前年の受賞者のうち13人がW杯に出場したが、優勝は0。74年西ドイツ大会のクライフ(オランダ)や82年スペイン大会のルンメニゲ(西ドイツ)ら優勝候補も、ともに決勝で敗れている。

 91年から始まったFIFA年間最優秀選手賞(10~15年はバロンドール)も同じ。誰もW杯優勝は果たしていない。澤穂希らが受賞した女子もW杯前年受賞者は誰ひとりW杯で優勝していない。昨年の受賞者はロナルド。ポルトガルのエースは二重の「呪い」をかけられていたわけだ。

 「呪い」にも理由はある(と思う)。バロンドールを受賞するためには、欧州CLなどでフル回転の活躍をすることが必要。当然、体への負担は大きい。「世界最高の選手」になることで、各国のマークも厳しくなる。心身ともにW杯で勝ち抜くのは難しくなる。

 過去10年、5回ずつバロンドールを受賞し、今大会も「2大スター」と言われたロナルドとメッシが、ともに大会を去った。W杯のたびに「バロンドールの呪い」が話題になる。これまで、その呪縛を免れたものは1人もいない。ロナルドやメッシでさえも、その呪いを断ち切れなかった。

 56年に制定されたきっかけは、元イングランド代表FWマシューズの存在。2度のW杯に出場し、多くの選手の模範となりながらもタイトルに恵まれなかったマシューズに「何かタイトルを」と記者たちが表彰したのが最初だった。「タイトルを取れない選手にタイトル」が起源だから、今でも受賞者は「タイトル」をとれないのかもしれない。

【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)

ウルグアイ対ポルトガル ポルトガルのロナルド(手前)はウルグアイのゴディンと競り合う(撮影・PNP)
ウルグアイ対ポルトガル ポルトガルのロナルド(手前)はウルグアイのゴディンと競り合う(撮影・PNP)