やはり抑えきれなかった。静観ムードでW杯開幕を迎えたイングランド国民の「優勝願望」だ。パナマ戦(6-1)で1次リーグ突破が確定した24日、国内の期待は一気に膨れ上がった。南部のワイト島では、W杯の観戦ではなく音楽祭の鑑賞に繰り出した群衆が、北部のマンチェスターでは、中上流階級のスポーツとされるクリケット国際試合の観衆までもが、ロシアでの母国代表ゴールを知る度に歓声を上げた。

 無理もない。W杯での6得点は代表史上最多。格下が相手とはいえ、圧勝で16強進出が決まった。エースのケーンがハットトリックとくれば、国民は86年のガリー・リネカーよりも、優勝を飾った66年W杯決勝でのサー・ジェフ・ハーストを思い浮かべる。1試合4得点以上も、2試合で計8得点の今大会を上回る最終得点数も、W杯での前回は栄光の66年。吉兆にも事欠かないのだ。

 せきを切ったような盛り上がりは止まらない。大手ブックメーカー(賭け屋)の母国優勝オッズも、開幕当初から半減近い9倍に。ケーンは、W杯得点王の個人タイトルどころか、「サー」の称号を得る爵位まで手にすると予想され始めた。

 当日は国内のビール消費も止まらなかった。専門家の推定では、飲みも飲んだり3300万パイント(約1万9000トン)。これも無理はない。記録にも記憶にも残る大勝は、日曜午後1時開始の一戦。気温20度後半の夏晴れ。サッカー好きにしてビール好きな庶民を照らす太陽は夜9時過ぎまで沈まないのだ。

 3戦目が行われる28日も予報は夏日。期待が増し、ビールが進む一夜になるだろう。ベルギーが相手だが、パナマ戦を受けて一斉に行われた決勝進出予想では、強敵に負けても逆に好都合。1位通過では準々決勝でブラジルかドイツとの対戦が濃厚だが、2位ならメキシコかスイスと当たると予想された。ついに、イングランドらしいW杯の夏が到来。ムードは大衆紙デーリー・スターの見出しを拝借すれば「ヒア・ウィー・ゴー(行くぞ)」ならぬ、「ビア・ウィー・ゴー」だ!(山中忍通信員)