ポルトガルのFWクリスチアーノ・ロナウド(33)が成熟を証明した。10年大会覇者のスペインとの1次リーグ屈指の好カードで、史上4人目の4大会連続得点にとどまらず、大会最年長でのハットトリックを達成。大会としても、自身としても51度目の3得点には、33才の真骨頂が詰まっていた。試合は3-3で引き分けたが、省エネ+ずる賢さを兼ねる絶対的エースが、唯一獲得していない冠へけん引する。

 ロナウドが大きくニヤリと笑った。開始4分、Rマドリードの僚友のDFナチョからPKを得た直後。憎たらしいほどの用意周到な作戦が透けるようだった。

 どうしても届かないW杯の頂点。取り残した唯一のタイトルへのラストチャンス。相手は強豪スペイン。先手を重視すれば、仕掛けどころはイメージできたはずだ。ペナルティーエリア手前左でパスを受けると、迷わずドリブルに入った。向かったナチョの癖はクラブレベルで習熟していたか。正対する相手の体に故意に触れるように左を抜けて、足をかけられ、吹っ飛ばされた。笛が鳴る。情け無用、してやったり。

 その姿に老練の一言が浮かぶ。ロナウドはそれ以降、1度もエリア内でドリブル突破をしなかった。あえてこの場面だけ仕掛けた。そこに33才になった男の賢さがのぞく。近年はむしろ、ドリブルなしの「省エネ」こそがスタイルだから。

 「この結果は長い間のサッカーへの取り組みによるもの」と試合後に言った。変化したからこそ、長く戦えている。スペインリーグでもダイレクトプレーでの得点が増えた。アシストもこの2年で激減し、20代のドリブル巧者、ウイングの印象は薄らぐ。

 この試合でも総走行距離は8・723キロ。GKをのぞき、最も距離が少なかった。10年大会、同じスペインとの決勝トーナメント1回戦(0●1)では、10・270キロを走破した姿から変貌している。前半44分の2得点目も、ほとんど動いていない。前線へのロングボールに、オフサイド位置にいたため動かず待機。ゲデスからの横パスにゴール正面から直接左足を強振した。

 衰えは変化と知能で補っているのだろう。足を動かさない分、より頭を動かすようになったか。冒頭のPK奪取、あえて動かなかった2得点目は神経戦での勝利も感じさせる。最も息が上がる後半43分、W杯、欧州選手権では45度目で始めてFKを決めた。冷徹に右足でゴール右隅に落としきった同点弾は、「省エネ」ゆえだろう。

 3大会で3得点の過去は払拭(ふっしょく)した。「いつだって自分のしていることに関して、自分を信じてきた」と自己肯定で初戦を終えた。そして、宣言した。「ポルトガルが最後まで戦い続けることに誰1人疑問を持つものはいないだろう。最後まで戦い続ける」。