シーズンも佳境を迎える3月、レアル・マドリードの来季の補強候補としてドルトムントのノルウェー代表FWアーリング・ハーランド、バイエルン・ミュンヘンのオーストリア代表DFダビド・アラバなど、さまざまな選手の名前が挙がっている。その中で最も注目を集めるのはパリ・サンジェルマン所属のフランス代表FWキリアン・エムバペ(22)で間違いない。

Rマドリードは当初、今季開幕に合わせてエムバペ獲得に動いていた。しかし新型コロナウイルスの感染拡大を受け大幅な収入減に陥っていること、そしてパリ・サンジェルマンとの契約がまだ2年残り、高額な移籍金が必要と予想されたことを考慮して、来季に見送るという決断を下し、今冬の移籍市場も含め一切の補強を行わなかった。

クリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)が退団して以降のRマドリードは、慢性的に得点力不足の問題を抱えている。C・ロナウド退団前2シーズンのチーム公式戦の総得点を見てみると、16-17年シーズンが173得点、17-18年シーズンが148得点だったのに対し、退団直後の18-19年シーズンは108得点と激減した。

そのため昨季、C・ロナウドに代わる新たなスターとしてエデン・アザールをチェルシーから移籍金1億ユーロ(約130億円)で獲得。しかし度重なるケガにより40試合以上欠場し、期待されたようなパフォーマンスを見せられず、得点力不足を解消する役目を全く果たせなかった。昨季のチーム総得点は99得点、今季ここまで57得点と改善されていない。

Rマドリード首脳陣はエムバペについて、「今後10年間、クラブの顔となる選手」として考えているという。しかしパリ・サンジェルマンが今夏、2億ユーロ(約260億円)以下で手放すつもりがないという報道が出ており、スポーツディレクターを務めるレオナルド氏が最近、契約延長に向けての自信をうかがわせる発言をしていたため、獲得は困難を極めそうだ。

世界的なコンサルタント会社KPMGが発表したエムバペの市場価値は1億8500万ユーロ(約240億5000万円)、ドイツの移籍情報サイト「トランスファーマーケット」による市場価値は1億8000万ユーロ(約234億円)と見積もられている。

それぞれの市場価値ランキング2位につける1億2500万ユーロ(約162億5000万円)のラヒーム・スターリング(マンチェスター・シティー)、1億2800万ユーロ(約166億4000万円)のネイマール(パリ・サンジェルマン)に大差をつけ、世界で最も高価な選手であるため、獲得には当然、経済面が大きな問題となる。しかし今夏、パリ・サンジェルマンとの契約が1年を切ることは、Rマドリードにとって有利に動く可能性が高い。

現時点でエムバペは契約延長を拒否しており、このまま説得できない場合は来夏、無料で手放さなければならないというリスクがパリ・サンジェルマンにはある。そのためRマドリードは今夏、相場よりも安価で獲得できると考えており、必要な費用が1億5000万ユーロ(約195億円)と見積もっているとのことだ。

しかし、もし移籍金で折り合いがついたとしても、年俸がさらなる障害となる。なぜならパリ・サンジェルマンは現在、契約延長で説得するため、ネイマールと同額の年俸手取り3600万ユーロ(約46億8000万円)を準備しているという。当然、Rマドリードもそれに匹敵する年俸が必要になるとみられており、その金額は税込みにすると年間7200万ユーロ(約93億6000万円)に達する。

そのため今夏は、アクラフ・ハキミやセルヒオ・レギロンアなどを売却して合計約1億ユーロ(約130億円)の収入を得た昨夏に続き、サラリーキャップを考慮しつつ、トットナムに期限付き移籍で出しているガレス・ベールのような高給取りの選手を含む大幅な人員整理を実施し、できる限り多額の資金集めに動くと推測される。しかし、新型コロナウイルスの状況が今後どうなるかにも大きく左右されることになるだろう。

そしてエムバペ入団が決定した場合、アザールが大きな影響を受けることになりそうだ。なぜならジダンが来季も監督を継続した場合、システムはこれまで同様、4-3-3になる可能性が高いが、両者のお気に入りのポジションはともに左ウイング。これまでは体調が万全の場合、そこはアザールの聖域となっている。

だがエムバペも左ウイング以外でプレーする気がないことが、1月に就任したばかりのパリ・サンジェルマン監督マウリシオ・ポチェッティーノとのやりとりで明らかになっている。

ポチェッティーノは当初、エムバペのポジションを右サイドに変更するプランを考えたとのこと。しかしエムバペは右ウイングやセンターフォワードでプレーする場合、自身のポテンシャルが損なわれると判断し、その提案を拒否して左ウイングが自分にとって理想的なポジションであることを伝えたという。

そのためRマドリードはエムバペと契約を結ぶ際、左ウイングのポジションを確約する必要があり、ジダンはアザールの新たなポジション探しで頭を悩ますことになりそうだ。

エムバペ獲得のライバルにリバプールなどの名前が挙がる中、並行してハーランドやアラバ獲得を視野に入れつつ、セルヒオラモスなどの契約延長の問題を抱えるRマドリードがこれから夏にかけ、パリ・サンジェルマンとどのように交渉していくかに大きな注目が集まる。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)