葛西、田畑はケガの功名で長く現役
日本史上最年長、41歳のメダルを見てきました。1歳下の葛西選手は、94年リレハンメルから10年バンクーバー大会まで一緒に出場してきた同世代の仲間。わたしは出場権を逃しただけに、年齢の壁を突破した葛西選手のメダルは、自分のことのようにうれしくて、久しぶりに心から喜べました。
日本選手団の主将が41歳の葛西選手で、副将はスピードスケートで富士急の後輩でもあった39歳田畑選手。選手団113人中、35歳以上は7人、40歳以上はわずか2人しかいない。トップレベルで長く現役を続けることは簡単ではありません。2人に共通するのは、若い時期にケガの挫折を味わっていることです。
葛西選手は98年長野大会前に左足首を捻挫し、団体金メダルメンバーから外れました。田畑選手も同大会直前に氷上で選手と激突し、左足首を骨折。出場辞退に追い込まれています。ケガをすることで、自身の体をよく知る。「ケガの功名」に、長く現役を続ける秘けつがあります。
わたしも30歳だった00年に腰のヘルニアの手術をしています。過去のスケート選手で、ヘルニアの手術後に復帰した選手はいませんでした。一種の賭けではありましたが、その後は練習量を3分の2に落として、質を重視。マッサージも1時間から2時間、3時間と、年齢が上がるごとに増やしました。自分も42歳まで現役を続けられましたが、2人も人一倍ケアを重視し、体の限界を理解しているからこそ、今があるのでしょう。
葛西選手は飛ぶことが好きだし、田畑選手は滑ることが好きです。わたしも「どうしたら速く滑ることができるか」と常に考え、滑りを極めたいと思ってきました。そこに「競技愛」があるから、練習は苦にならないし、限界まで自分の体をいじめ抜くことができるのです。
スピードスケートでは、特に男子の方が、30歳を超えると「肩たたき」があったり、自分自身も会社での立場を考え、未練を残して現役生活を終えるケースが多い。JOC(日本オリンピック委員会)や競技団体には、才能のある選手、やる気のある選手には、できるだけ長く現役を続ける環境を整えてほしい。葛西選手は4年後の平昌大会まで現役を続けるそうです。ここまできたら50歳まではやってほしいな。(長野五輪女子500メートル銅メダリスト)
日刊スポーツ新聞社
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