[ 2014年2月17日9時16分

 紙面から ]1回目に139メートルの大ジャンプを見せた葛西(撮影・井上学)<ソチ五輪:ジャンプ>◇決勝◇15日◇男子ラージヒル(LH=HS140メートル、K点125メートル)

 7大会連続出場の葛西紀明(41=土屋ホーム)が、真の「レジェンド(伝説)」になった。ジャンプ男子ラージヒルで銀メダル獲得。1回目に139メートルで2位、2回目も133・5メートルで合計277・4点をマークし、冬季五輪の日本選手最年長メダルとなった。7度目で初の個人メダル。日本ジャンプ界のメダルは98年長野以来4大会ぶり。亡き母幸子さん(享年48)、病魔と闘う妹久美子さん(36)にささげるメダルとなった。

 葛西が悲願のメダルを獲得した瞬間、姉紀子さん(44)は弟がチームメートと抱き合って喜ぶ姿を直視できなかった。北海道名寄市内の自宅でテレビ観戦。「涙がぶわーって出てきて。もう号泣でした」。試合後は知人、関係者からの祝福の電話や、マスコミの取材が続いたが、何時間たっても興奮は冷めなかった。

 数日前の夜、北海道・下川町にある母の墓を長女と訪れた。雪深く墓には行けなかったが、遠くから母が眠る墓に向かって「お母さん、金メダル取らせてあげて!」と叫んで懇願したという。「お母さんもきっと喜んでいるはず」と言葉を詰まらせた。

 サポートがあって、今の葛西がある。家の家計は裕福ではなく、亡くなった母幸子さんが家族5人の生活を支えていた。「お米も買えないくらい貧乏で。紀明もよく分かっていた」。同郷で2歳上の岡部孝信(43)ら先輩のお下がりを譲り受け、飛び続けた。

 だからこそ、と紀子さんは言う。「ジャンプをやめたいと言ったことはない。お金がない家ながらも、皆さんのおかげでできる。『こんなことでやめられない』って気持ちがあると思います」。葛西家では、両親も紀子さんも妹久美子さんも、海外を旅行したことがない。弟が家族分を、1人で体験してくれている。葛西の海外遠征のおみやげ話を、みな楽しみにしている。

 個人のメダルがどうしても欲しい弟のため、今大会はゲン担ぎをした。試合前の夕食にカツ丼を作り、その画像をLINEで送信して激励した。母幸子さんが生前よく作っていた甘めの味つけ。試合後すぐにソチから電話がかかってきた。第一声を聞いた瞬間、紀子さんの目から引いたはずの涙がまたあふれてきた。

 7度目の五輪で最後の戦いとなる団体戦の前には、弟が大好きなサツマイモ入りカレーを作り、また画像を送るつもりだ。【保坂果那】