男子100メートルで日本歴代2位の10秒01を持つ桐生祥秀(20=東洋大)が、3年ぶりに自己ベストタイをマークした。追い風1・8メートルの準決勝で後半も乱れない走りを披露。9秒台は逃したが、日本陸連のリオデジャネイロ五輪派遣設定記録10秒01を突破。日本選手権(24~26日、愛知・瑞穂)で8位以内に入れば、代表に内定する。向かい風0・3メートルの決勝も10秒10で優勝した。17歳で出した10秒01から1139日。初五輪を当確にし、9秒台は秒読み段階に入った。

 桐生ジェットが噴射した。追い風1・8メートルの準決勝。持ち味の加速で抜け出すと、スピードが落ちる終盤も乱れない。地面を踏みしめて前に進む。胸を出すフィニッシュなしで10秒01。1000分の1秒まで計測する写真判定装置では10秒004。9秒99になる9秒990に0秒014=わずか14センチ。9秒台は手の大きさで届く位置まで迫った。

 どよめくスタンドをよそに「10秒01はもういらない。あとちょっと。もう1歩先が見たかった」。5度の10秒0台は日本人初となったが「10秒01はもう飽きた。うれしさ50、悔しさ50。3年前は出ちゃった記録だったけど、今は出て当然と思っている。10秒00でも悔しいと思う」。

 敗戦が糧だ。5日の布勢スプリントで10秒09も10秒06の山県に敗北。13年4月の10秒01以降初めて1シーズンで同じ日本人に2度敗れた。オフを挟まず「練習のボリュームを増やしたい」と訴えた。「久々にめちゃ悔しかった。転んでも起き上がって勝てばいい」。

 終盤の走りを改善した。上体が反ってストライドが広がる悪癖を修正。150メートル走、ミニハードルなどを敢行。足裏で正確に地面をとらえた。土江コーチからこの日、後半の走りで試すように言われて「足で刻むとストライドが短くなると思ったが、動画を見たらいい感じだった。うまくできた」。土江コーチは「9秒台を出す準備はしてなかった」と言う状態で肉薄だ。

 17歳の春。10秒01の自己記録を更新するたび記念の腕時計を買うと決めた。「貯金もしてますよ」。仲間が自己記録を更新するたびに「俺は自己ベストを出してない」。準決勝の前の組で大瀬戸が自己記録10秒19を出した姿に「うらやましいな」と刺激を受けた。

 派遣設定記録を突破し五輪当確の情勢になった。次は日本選手権。山県らライバルとの日本一決定戦へ「負けて9秒台では落ち込みが半端ない。誰にも負けたくない。9秒台で優勝が一番いい。僕が日本初の9秒台を出すように頑張ります」。成長を示す10秒01でジェット桐生が9秒台を射程にとらえた。【益田一弘】

 ◆電気計時 電気計時の電気写真判定装置では1000分の1秒単位で計測できるが、記録は100分の1秒単位までしか反映せず、1000分の1秒単位は切り上げる。

 ◆リオ五輪の陸上日本代表選考基準 個人種目の出場枠は最大3。日本陸連が定めた派遣設定記録の突破者で日本選手権8位以内の最上位は自動的に代表になり、国際陸連が発表した参加標準記録到達者が日本選手権で優勝した場合も選出が決まる。男子100メートルの派遣設定記録は10秒01で突破者は桐生のみ。参加標準記録は10秒16で山県ら3人が突破している。