「インテリ山の神」の誕生だ。法大5区の青木涼真(2年)が、1時間11分44秒の区間新記録をマークし、9人抜きでチームを14位から5位に押し上げた。埼玉屈指の進学校・春日部高出身で、大学初の理系箱根ランナー。無欲で臨んだ山登りで、1954年(昭29)の山内二郎以来、法大64年ぶりの5区区間賞となった。

 無欲どころか、無の境地だった。青木は初の山登りを「ぼんやりしていて、あんまり覚えていないんです…」と笑いながら振り返った。

 小田原中継所でたすきをもらった時は14位。「シード圏内に入れれば」と、オレンジのパンツからのぞくがっしりした脚を、無心で前へと進めた。コースの中間の小涌園前で10位に浮上。その後も全く表情を変えず、ゴール手前の20キロ付近では9人目を抜き、一気に5位に躍り出た。記憶にあるのは沿道にいた知人の顔ぐらい。「ゾーンに近い」という高い集中力で、昨年から距離変更となった5区に新記録を残した。

 法大生命科学部で環境応用化学を専攻。白衣に防護メガネ姿で実験ざんまいの日々を送る。昨年、8区でデビューし、法大初の理系箱根ランナーとなった。山登りに任命されたのは、昨年9月。坪田監督から「登れるやつがいないから頼む」と頭を下げられた。「(山は)好きではないんですが、周囲の評価を信じてみるのもいいかなと思って」。心を決めてからは、多摩山奥の大学周辺にあるアップダウンの激しい坂で練習。客観的判断を信じ、研究の成果を本番に生かした。

 「こういう大きな大会で区間賞を取ったことがないのでまだ実感が湧かない。たぶん、明日になっても実感できないのかな…」。子どもの頃から科学が大好きで、大学入学当初は研究者の道を目指していた。でも今は「陸上で勝負できるかも」と、実業団で陸上を続ける新たな夢が生まれた。【高場泉穂】