シカゴ・マラソン(現地7日)で2時間5分50秒の日本記録を出した大迫傑(ナイキ)が18日、都内でインタビューに応じた。タイムより勝負を重視する信念の理由や、競技引退後、コーチとして陸上界へ関わりたい思いを明かした。

 

-日本記録を出した後の反響は

大迫 「おめでとう」と連絡をしてくれる人が多い。ただそんなに言うほど変わったことはない(笑い)

-今日は朝からメディア出演している。そういうのは苦手な部分もある?

大迫 苦手とかでなく、必要であればやる感じです。

-拠点とする米国の「ナイキ・オレゴンプロジェクト」を目指そうとした契機は

大迫 高校、大学と競技を続けて、常にちょっと背伸びをしないといけないチームにと考えていた。大学を卒業する時に、「どこが一番いいか」と考えた時、オレゴン・プロジェクトだった。常に自分が挑戦できる環境に身を置きたいと思っていた。

-10日帰国した時は、サッカーなど他競技の選手にも刺激を受けたと話していた。最初に海外で活躍する選手をすごいと思ったのは

大迫 最初というのはない。その競技に興味があるわけではなくて、テレビなど流れてくる情報などで単純に海外でやっている選手もいるんだなと。陸上界においては珍しいかもしれないけど、他の競技からしたら当たり前のことなんだなと。すごくサッカーが好きと思われているかもしれません。ただ他のスポーツもそうですけど、あまり見ること自体を好きなわけではないんです(笑い)

-「半端ない」と形容されるのも周囲が騒いでいるという感覚?

大迫 それで注目してもらえる分にはいいですけど、どうぞみたいな感じです(笑い)

-「半端ない」がブームになったサッカーW杯の大会期間中、「シカゴ・マラソンで決勝弾を決められるように頑張ります。俺は大迫傑だ」とツイッターでつぶやいた

大迫 特に意味はないですけど、旬だったので。半端ないというワードが好きで使っていたわけではなくて。旬なワードを使った方が皆さんに走ることを知ってもらえるという感じですかね。

-注目を集める姿勢、海外で出ていく姿勢などパイオニアとしての使命を感じることは?

大迫 そのためにやらないといけないというのは特に感じていない。ただ自分が走るなら、どうせなら注目してもらいたい。そこの先駆者とかでなく、ただ単に自分が最大の利益を得るために動いているだけ。競技のことに関しては、他の事はあまり考えていないです。

-過去に「まずは自分が(世界一に)少しずつでも近づくことで、少しでも近づいた形で(次世代に)渡せる」と言っていた。

大迫 僕、自身も指導ということにすごく興味がある。今、僕自身がやっている環境は、日本陸上界からすれば、なかなか特別な環境。それも利用しながら、うまく指導ができたら、より強い選手も生み出すこともできるのかなと思う。

-引退後はコーチとなるイメージ?

大迫 そうですね。僕ができることと言うか、陸上界にできることは、そういうことだと思う。それも今後によって、変わってくると思うが、現状としての希望は指導をしたい。自分が(日本を)出る時に大変なことがあった。それを全部取り除くことがいいことかは分からない。ただ、もっと行きやすくするルートを作ってあげる。よりノーストレスで、日本と同じようにトレーニングをできる。ノーストレスで強くなるのが理想。そういう環境をつくって上げられたらいいという思いはある。

-日米の指導の違い

大迫 指導の違いというよりは選手の違いだと思う。選手が何を求めるかで指導も異なる。僕とピート(ジュリアン・コーチ)との関係が、必ずしも全員の選手に当てはまるかと言えば、そうではない。もちろん体罰とかはやってはいけないことだが、ある人は上から言わないとダメ。またある人は上から言われるとダメ。そういう意味では、(指導の)何か大きな違いはないですね。誰がやるか、誰がその指導を受けるかが、一番大事。

-米国に行く時に、最も大変だったのは

大迫 言葉の壁ですかね…。それでも段階を踏んできた。最初はメールでのやりとりから始まり、今はコーチと練習のことを会話できる。でも意外とやってみたら、そんなに…(大変ではなかった)。

-どのぐらいで会話は可能に?

大迫 どこかで劇的によくなったというのはない。徐々にという感じ。(渡米前も)勉強はしてましたけど、なかなか上達はしなかったですね。

-米国にいって一番成長した部分は

大迫 自分と向き合えるようになった。精神的には強くなったと思います。

-つらかった時期はなかった?

大迫 特になかった。周りの人が知らなかっただけで、常に前進はしていた。だから今回の記録に関してもそうですし、何か特別になわけではない。僕らからしたら、そんなに驚きでもない。良くも悪くも少しずつしか進んでこなかった。それを実感できていたので、つらく感じる時期もなかった。

-少しずつ「しか」なのか、少しずつ「でも」なのか

大迫 少しずつ成長して来られたことはすごい。ただそれすらできない選手もいる。1段抜かし、2段抜かしできるんじゃないかと勘違いしてる選手ももちろんいましたし。少しずつしか進めないことに気がつけたことが、すごくよかったなと思う。

-少しずつの成長速度を感じていたから、日本記録は自然と出るとの思いがあった?

大迫 もちろん出せるなと思ったが、そこを意識していたわけではない。走り始めた時は記録は意識してなかった。勝負に徹し、最後2キロぐらいでいけるんじゃないかと思ったぐらい。(マラソンの)日本記録を持ちたいというのはない。その日、その一瞬を大事に生きてきただけ。まだ現役だし、日本記録というのは、ゴールではない。

-記録よりも勝負を重視する

大迫 タイムは自分でコントロールできない要素が左右する。例えば風、気温、ペースだったり。そういうのを意識するのはすごく無駄なことだと思う。周りから「設楽悠太選手はどうですか?」と聞かれるとする。すると、僕は設楽選手のことを一から想像し、その像を作り上げないといけない。そういうのはすごく無駄な作業で、そういうものに僕は価値を見いださない。どういうことを意識すれば、より自分の内にフォーカスできるかと考えた時、勝負だと思う。もちろん周りとの勝負もあるが、多くの時間を自分との勝負に割くことができる。

-勝負重視の信念はいつから

大迫 マラソンをやってからが大きい。ただ言ってしまえば当たり前のこと。すごくシンプルなこと。そういうことに気が付いたのは、マラソン練習をやってからが大きいですね。

-トラックとマラソンで違うものなのか

大迫 同じだと思うのですけど、マラソンの方が気が付けるための時間が長い。練習も1人ということもありますし。なので自分で練習する時間が多いほど、気が付くチャンスは多いのではないかなと思います。

-フォアフット(爪先着地の走法)はいつから

大迫 意識したことないので、分からないですけど、本当に不整地を走ったりとか、スピードトレーニングをしっかりしたりとか。そういうことが大事なのかなと思っていて。それは結果であって方法ではないんですよね。ヒールストライク(かかと着地)でも速い選手もいますし、フォアフットだから速くなるのかと言ったら違う。そこを間違えている人は多いかなと思う。僕が高校の時、どうだったかも覚えてない。今でも接地は意識したことない。だから、いつからという時期は何とも言えないんです。

-フォアフットは腱(けん)の負荷が大きい。故障で悩んだり

大迫 使い方だと思う。フォアフットを意識して走るとふくらはぎが張り、アキレス腱(けん)も負担がかかる。ただ体全体を使って、その形ができてさえすれば、より少ない力で前に進みますし、そんなに衝撃は変わらないと思う。その辺は専門家ではないし、僕が自分の走りを科学的に分析をしたこともないので、分からないですけど。