3強中心のレースが展開されそうだ。4連勝中の旭化成、前回2位のトヨタ自動車、東日本予選を制した富士通。天の配剤とでもいうべきか、3強各チームに東京オリンピック(五輪)代表内定選手が1人ずついる。旭化成には1万メートルの相沢晃(23)、トヨタ自動車にはマラソンの服部勇馬(27)、富士通にもマラソンの中村匠吾(28)。代表選手の走りが勝敗を左右する駅伝になる。設楽悠太(29)が復活すれば3強に匹敵するホンダ、東日本予選で最終区まで富士通を苦しめたGMOアスリーツが3強を追う。現時点での予想をもとにレース展開を展望してみたい(正式区間エントリーは大会前々日の12月30日に決定)。

◆1区(12.3キロ)は絶対に出遅れが許されない区間。3強の1区候補は旭化成が前回区間2位の茂木圭次郎(25)、トヨタ自動車が藤本拓(31)か宮脇千博(29)、富士通が日本選手権5000メートル2位の松枝博輝(27)。

入賞のボーダーラインにいるチームは1区にエースを起用して、一気に流れを引き寄せる戦い方をとることがある。住友電工・遠藤日向(22)、トーエネック・服部弾馬(25)、トヨタ紡織の羽生拓矢(23)らがそれに該当する。遠藤は3年前の区間賞ランナーで、今年は5000メートルで13分18秒99の今季日本2位記録を出した。服部は18年日本選手権5000メートル優勝者でラストが強い。注目したいのはルーキーの羽生で、中部予選1区では区間2位を18秒も引き離した。

ラスト勝負になると松枝、遠藤、服部らが有利になる。茂木も12月の日本選手権ではラストの上がりが速かった。勢いのある羽生が、中盤から速いペースに持ち込もうとするかもしれない。

◆2区(8.3キロ)は唯一、外国人選手を起用できるインターナショナル区間。トヨタ自動車はビダン・カロキ(30)がDeNAから移籍してきた。1万メートルで五輪と世界陸上5大会に入賞している世界のトップランナーで、これまで2区で伸び悩んでいたトヨタ自動車が一転、攻勢に出られる区間になった。

カロキと日立物流のリチャード・キムニャン(22)、前回区間賞の九電工ベナード・コエチ(21)の3人が今季、1万メートルで27分ヒト桁台をマークしている。富士通は世界ハーフマラソン9位のベナード・キメリ(25)、三菱重工もクレオファス・カンディエ(20)が好調で、上記5チームは2区で上位進出が期待できる。

そして注目しないといけないのが旭化成だ。マゴマ・ベニエル・モゲニ(19)が、オープン参加した12月の日本選手権は28分11秒94でチーム内7番目だった。旭化成の西村功監督は「トップから30~40秒差で3区につなぎたい」と話している。日本選手権でコエチに先着した相沢か、あるいは鎧坂哲哉(30)を起用してくる可能性がある。

◆3区(13.6キロ)は追い風にも乗って、スピードランナーたちが切れ味鋭い走りを見せる。トヨタ自動車は前回、西山雄介(26)が区間賞を取った。西山が4区に回った場合は、ケガから復活した窪田忍(29)かキャプテンの大石港与(32)だろう。2区のカロキで旭化成や富士通を何秒リードできるかによって変わってくるが、トヨタ自動車がトップを走り続ける可能性が大きくなっている。

しかし旭化成も相沢か鎧坂、富士通は日本選手権5000メートル優勝の坂東悠汰(24)、ホンダは前回区間2位の中山顕(23)か日本選手権1万メートル2位の伊藤達彦(22)の起用が予想される。3強、4強と言われるチームが上位に固まってきそうだ。

19年大会2位の三菱重工(当時MHPS)は1500メートル日本選手権2位の的野遼大(28)と、マラソン2時間7分台の定方俊樹(28)で1区と3区を担う。4区の井上大仁(27)に30秒以内の差でつなげば、4区以降で優勝争いに加わることができる。

◆4区(22.4キロ)はニューイヤー駅伝最長区間であり、各チームのエースが集結する。旭化成はモゲニが復調して2区に入れば相沢か鎧坂、2区に相沢か鎧坂が入れば4区は市田孝(28)の可能性がある。富士通は五輪マラソン代表の中村か2年前の順大4年時に箱根駅伝2区日本人最高記録を更新した塩尻和也(24)、トヨタ自動車は西山か窪田が有力だ。ホンダが伊藤なら1年前の箱根駅伝2区、今年の日本選手権1万メートルに続き相沢とのデッドヒートをファンは見たくなる。

3強とホンダの争いに加わってくる力があるのは三菱重工、GMO、SGホールディングス、ヤクルトあたり。三菱重工はこの区間で2年連続区間賞の井上、GMOは青学大のエースだった一色恭志(26)か12月の福岡国際マラソンに優勝した吉田祐也(23)、SGホールディングスは日清食品グループから移籍した佐藤悠基(34)、ヤクルトはハーフマラソン日本記録保持者の小椋裕介(27)かマラソン2時間6分台の高久龍(27)。

3強とホンダ、三菱重工のどこかがトップに立つ展開になりそうだ。

◆5区(15.8キロ)は向かい風となる区間で起伏もある難コース。ここでトップに出るか、最低でも先頭が見える範囲に上がらなければ優勝は苦しくなる。旭化成で4年連続この区間に起用されている村山謙太(27)が、まさにその走りを続けて来た。追い上げるべきところで追い上げ、引き離すところで引き離す。緩急自在の走りを今回も見せてくれるだろう。

トヨタ自動車はマラソン五輪代表の服部が過去2年5区を走り、2年前は村山を抑えて区間賞を獲得した。前回も村山に追い上げられたがトップを譲らなかった。12月6日の福岡国際マラソンを欠場することになったふくらはぎの状態が万全なら、村山を抑えて再び区間賞を取る可能性も、トヨタ自動車がトップで6区にタスキを渡す可能性もある。

富士通は今季1万メートルのチーム記録を更新した鈴木健吾(25)が第一候補だが、ケガからの復調が不十分なら中村か塩尻になる。

3強以外ではGMOが一色か吉田、三菱重工は新人の山下一貴(23)か。山下は駒大の箱根駅伝2区を3年連続で任されてきた選手で、三菱重工では井上から4区を引き継ぐと期待されている選手だ。

予想が難しいのでホンダで、マラソン前日本記録保持者の設楽悠太(29)が、復調次第では後半のどこかの区間に登場しそうだ。

◆6区(12.1キロ)は2区以外では最短区間で、チーム7番目の選手や新人が起用されるが12年大会以降はすべて、この区間でトップに立ったチームが優勝している。13年大会以降は8年連続優勝チームの選手が区間賞を取っている

旭化成は前回、高卒2年目の小野知大(21)を抜擢。小野が期待に応えトヨタ自動車を逆転した。今季も12月に入って調子を上げ、6区で連続区間賞も狙える状態だ。新人の今井崇人(24)も出場の可能性があり、区間賞を狙って走る。

トヨタ自動車は新人の青木祐人(23)が候補だ。日本選手権1万メートルで27分台と好走した。27分台を出したことで1区や、アンカーに回る可能性もある。15、16年の2連勝時にこの区間で連続区間賞の田中秀幸(30)も、昨年5000メートルで自己新を出し東京五輪代表入りも狙っている。

富士通も国学院大のエースだった浦野雄平(23)、駒大出身の中村大成(23)ら新人が候補。GMOも東日本実業団駅伝5区区間賞を取った帝京大出身のルーキー島貫温太(23)が候補の1人。ハイレベルの新人たちが激突する区間になるかもしれない。

◆7区(15.5キロ)での首位逆転は11年大会を最後に起きていないが、今回は最終区まで勝負がもつれる可能性がある。

旭化成は2年前の7区でMHPS(現三菱重工)に競り勝った大六野秀畝(28)が有力。2区にモゲニが起用できれば、市田孝を残しておくこともできる。

トヨタ自動車は宮脇、藤本、早川翼(30)の実績あるベテラン勢が候補。

富士通は塩尻、浦野、中村大成の3人のうちの誰か。この区間に塩尻が登場したら、他チームに大きなプレッシャーを与えられる。

GMOは下田裕太(24)、林奎介(24)、渡辺利典(27)と、箱根駅伝復路で区間賞を取ったことのある青学大出身3人の誰かがアンカーを託されそうだ。

この1年間長距離界全体に好記録が続出している。どの選手も過去に素晴らしい実績や記録を持っているだけに、ニューイヤー駅伝当日にピークを合わせることが勝敗を左右する。