同学年でしのぎを削り、ともに女子短距離界をけん引し、唯一と言っていいライバルだった。女子100メートル11秒32、200メートル23秒15でともに日本歴代2位の記録を持つ高橋萌木子(ももこ)さん(33)は、ともに日本記録保持者である福島千里(33)の引退について、こう話した。

「頑張った以上のことをやった。だから、よく頑張ったとも言えないし…。なかなか言葉が見つからないのですけど、楽しませてくれてありがとう。一緒にやっている時も、彼女がいてくれて自分は世界を見ることができた」

昨年末。ランチでイタリアンを食べに行った。その時、早々に「さらっと」とユニホームを脱ぐことを伝えられた。

「引退するって私言ったよね?」

福島らしいと言えば、らしい唐突な報告だった。「もういいよね。よくやったよ、この数年間」。唯一無二の友であり、ライバルを前にしながら、自らをねぎらうように福島はパスタを食べていたという。

高橋さんは埼玉栄高時に100メートルで同学年の福島を抑え、全国高校総体を3連覇。10年日本選手権200メートル決勝では福島に0秒01差の23秒56で勝つなど名勝負を繰り広げてきた。

そんな高橋さんが見る福島の人柄は? とても一言では表現できないが、こう絞り出す。

「ストイック。人に厳しさがありながらも、奥底には優しさがある」

ゆっくりとした語り口からはイメージしづらいかもしれないが、福島は人が言いにくいことも若手に言うタイプだった。マイナスな行動や意識が目立つと、自ら注意した。言われた相手は落ち込むかもしれない。ただ、それは女子短距離が「世界で戦いたい」と願い、また若手に成長してもらいたいと心の底から思っていたからこそ嫌な役目も担った。普段、口数は多くないからこそ、深く心に響くものがあった。ともに代表として戦っていた時を高橋さんは回想する。

「多分、何も言わない人の方が好印象だと思うのですけど、裏を返すと、何も言われないのは、その人の成長を遅らせている。私は優しいのはちい(福島)の方だと思う」

競技から離れても互いに尊敬し合う。「陸上の枠があってもなくても、人としてリスペクトできるかな」。現在、高橋さんはフリーの立場でコーチングをしている。これから福島は「セイコースマイルアンバサダー」となり、次世代育成を担っていく。第2の陸上人生-。また2人だからこそできる何かを一緒にやりたいとも考えている。【上田悠太】