阪神、ロッテで活躍した鳥谷敬氏(41=日刊スポーツ評論家)がアスリートに迫る「鳥谷敬VSパリ五輪の星」。第4回は陸上女子短距離界のエース格、児玉芽生(23=ミズノ)との白熱マインド対談だ。7月のオレゴン陸上世界選手権では、400メートルリレーで11年ぶりの日本記録を更新しながら予選敗退。「世界との差」を埋めるため、心身両面で必要なピースとは-。【取材・構成=佐井陽介】

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(前編から続く)

鳥谷 以前、ハンマー投げの室伏広治さんと一緒に練習させてもらったことがあります。「五輪は4年に1回しかなくて、その瞬間しか輝ける時がない。気持ちの持っていき方が難しい」と言っていました。

児玉 はい。どんなにアップで調子が良くてスタートラインで自信があっても、11秒のレースで力を発揮するには精神状態も影響してくる。苦しいこともたくさんある4年間を一瞬に懸けるのは難しいです。スタートが決まる、決まらないでも精神状態が全然違う。突然横の選手に前に出られて頭が真っ白になることもあります。私は今年スタートで乱れるレースが多い。同じ歩数でもその日の状態で気持ち悪かったりもあるので、感覚を忘れないように練習を続けています。

鳥谷 メンタルの比重もだいぶ大きいのですね。

児玉 私は精神面に左右されがちで(苦笑い)。

鳥谷 心を整える方法は持っていますか? 読書が好きだと聞きましたが。

児玉 本屋が好きで。小説もアスリートの方が書かれた本も読みますね。

鳥谷 じゃあ休日はカフェで本を読んだりとか?

児玉 はい。行き詰まった時とかは(照れ笑い)。試合前とか結果が悪い時は、頭の中で整理がつかなくなったりする。ゆっくりできる場所で自分の感情を言葉にして文章を書いて、いろいろ整理したりします。

鳥谷 後で読み返したりもするんですか?

児玉 はい。日本選手権の前にどうしても冷静になれない時だったら、前年の日本選手権の時の言葉を読み返して、気持ちの乱れ方や落ち着かせ方を見返したりしています。野球選手もメンタルコントロールは重要ですよね?

鳥谷 野球の場合、超一流でも打てる確率が3割で7割は失敗。失敗をどう受け入れられるか、生かすかを考えられる人が長くプレーできていますね。もちろん、ズバ抜けた身体能力で勝負する選手も中にはいますが。あとは…心配性の方が長くやれている印象があります。「オレは大丈夫」と自信満々な人はダメになった時にもろいんです。

児玉 面白いですね。

鳥谷 だから不安になって悩んだり自分を見つめ直すのは、すごく大事なことだと思います。不安はしっかり準備できている証しですから。きっと今のままで素晴らしい未来が待っているはず。これからも活躍を楽しみにしています!

児玉 ありがとうございます! 頑張ります!

 (この項、終わり)

◆陸上女子400メートルリレー 日本は7月の陸上世界選手権に5大会ぶり出場。児玉は3走を任され43秒39の日本新記録も、1組7着に予選敗退した。2大会ぶり出場となった昨夏の東京五輪は43秒44で1組7着の予選敗退。児玉は2走を務めた。

◆児玉芽生(こだま・めい)1999年(平11)6月8日、大分県臼杵市生まれ。姉の影響で小学1年から陸上クラブへ。大分雄城台高校3年でインターハイ、国体で100メートル優勝。福岡大3年時の日本インカレ100メートルで日本歴代3位(現役1位)の11秒35を記録した。21年は日本選手権100メートル、200メートルで2冠。22年は日本選手権200メートルで優勝。21年東京五輪、22年陸上世界選手権で女子400メートルリレー日本代表。今春ミズノ入社。160センチ。

 

【鳥谷敬VS児玉芽生】陸上女子短距離エースは世界との差を埋めるために「福島さんを超えたい」