東京農業大のスーパールーキー、前田和摩(1年=兵庫・報徳学園)が1時間1分42秒で日本人トップの9位でゴールでした。この走りが貯金となってチームは総合11位(13位までが通過)をつかみ、10年ぶりの箱根路復帰を決めた。

15キロすぎ、集団走から飛び出した。人生初のハーフマラソンだったが、臆することはなかった。

「残り5キロだったら持つ。気持ちで押し切れる」。先行するケニア出身の留学生、中央学院大のエース吉田礼志(3年)の背中を追った。

18・4キロすぎで5000メートルと1万メートルの日本学生記録を持つ東京国際大のエチェーリ(1年)を抜いた。さらに最後の長い直線。吉田の背中を捉えた。

「もう出し切ろう」。歓声に背中を押され、全力で腕を振った。勢いは止まらない。吉田をかわす。

「1秒でも前へ、1秒でも前へ」。頭の中で繰り返した。そしてフィニッシュ。1時間1分42秒。2018年に塩尻和也(順大4年)が記録した日本人最速には20秒遅れたが、その強さは際だっていた。

実は、有言実行の日本人トップだった。チームでは4年生の実力者、並木寧音と高槻芳照を含めた3人で設定タイムを速くし、別メニューで練習している。「学生トップレベルの選手たちと素晴らしい環境でできている。だから日本人トップも無理ではないと思っていました。自分の思いが実りました」と喜んだ。

今年6月の全日本駅伝予選会では1万メートルでU20(20歳以下)歴代2位となる28分03秒51をマーク。強烈なインパクトを残した。「スタートしたら学年に関係なく勝負していく」。第100回記念大会で全国の大学へ門戸が広がり、多くの注目を浴びる中、ケニア人留学生とも遜色ない走りを堂々と披露してみせた。

元々はサッカー少年だったが、中学時代に陸上部の先生に駅伝に誘われ、その魅力にはまった。「タスキをつなぐことは、練習してきた思いをつないでいくことで、感慨深いです」。今回も先輩たちとさまざまな思いを持ってこの日を迎えた。

「4年生たちが頑張ってきて良かったと思えるように、いいレースができたら。そんな思いを伝えたくて走りました」。自他ともに認める「駅伝男」のパッションは、東農大のメンバー、スタッフ、OB…、関わるすべての人を笑顔にする。

11月5日には伊勢路を走る全日本大学駅伝、そして来年1月2、3日は箱根駅伝が待っている。今回の予選会の走りで、前田への注目度はより高まってくる。そんな中、「エース区間を希望しています。全日本なら7区、箱根なら2区。各大学の強い選手と勝負がしたい」とさらりと口にした。

追い込むことなく、余裕を持ってじっくり練習を積むスタイルにひかれ、東農大を選択したという。「搾り出すような練習はしていない」。まだまだ底が見えぬ逸材が、ついに全国区デビューの時を迎える。

◆前田和摩(まえだ・かずま) 2005年(平17)1月16日、兵庫県生まれ。兵庫・報徳学園高で本格的に陸上競技を開始。22年全国高校総体(インターハイ)男子5000メートルで日本人トップの4位。23年1月の全国都道府県対抗駅伝は5区2位。同5月の関東インカレ男子2部5000メートルは4位。自己ベストは5000メートルが13分56秒65(高校3年時)、1万メートルが28分03秒51。国際食料情報学部食料環境経済学科在籍。