昨年10月、2年ぶりに岩手県大船渡市を訪問してから3カ月。公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた、東北「夢」応援プログラムの中間発表がオンラインにて行われた。今、まさにコロナ第6波の真っただ中で、私は子供たちが元気なのか、大船渡のみなさんが元気なのか、さまざまなことを考えながらこの中間発表に臨んだ。


東北「夢」応援プログラムの様子。左下が筆者
東北「夢」応援プログラムの様子。左下が筆者

3カ月前は訪問できたが、また移動が困難な状況にある。私は改めて、6年目となるこのコンテンツに安堵(あんど)感を覚えた。なぜかといえば、「中止」がないからだ。毎月、10人の子供達から送られてくる動画を通して、遠隔指導ツールで指導することが最初から決まっているのだ。

いま、生活する中で誰しもが「予定変更」を経験していることだろう。イベントの延期や中止、保育園や幼稚園、小学校、教育機関の休園、休校。家庭の事情や仕事の都合。そのために経済の流れも鈍くなっている。

そんな中、この遠隔指導ツールを使用することで、いつでもどこでもコンテンツにリーチできて、約束していることが達成できる。そのことが私としては、本当にうれしい。毎月子供たちは、私のフィードバックを丁寧に聞き、泳ぎに反映してくれている。「つながっている」ことが、実際に会わなくても感じることができる。

今回もオンラインで子供たちと会って、ここまでの泳ぎについて1人1人フィードバックした。小学2年生から高校生まで参加している。「どうやったら腕がぶれずに泳げますか?」や「家でできるトレーニングはありますか?」など、さまざまなことを質問してくれた。

子供たちへコンテンツを届けるには、家族をはじめ、大人の努力がとても重要になる。知っているようで知らない子供の心をたくさんの大人が必要でもあるし、大人のアンテナがどこに立っているかも重要になってくる。このコロナ禍でより、それが必要だと感じた。

そして、コミュニティーの場としてのオンラインコンテンツも必要だ。会議や授業、シンポジウムなどすでにオンラインが定着しているが、たわいのない話や、会話、対話を目的とするものも増えていくといいなと感じる。プライベートではなく、オフィシャルでのコミュニティーの場所だ。

その理由は、メンタルヘルスなどの課題が近年多くあり、自分の気持ちを話す場所が減っているからだ。

見えないものを可視化するのは難しいこともあるが、メンタルサポートの観点でも「メンター」が必要だと言われているし、自分の気持ちや感じていること、それに対して意見してもらう。このシンプルなやりとりが私たちの生活にどれだけ必要なことかと思うのだ。

今は大声で応援できないとか、マスクは外さないで話すなど、さまざまな制限がある中であるからこそ、このことが必要だ。私たちは、ルールを守り秩序を保てるからこそ、不満や不安を口に出せない場合も多いのではないだろうか。

今回の東北「夢」応援プログラでも、子供たち1人1人が一生懸命に「うまくなりたい!」との一心で、私の話を聞いている。その姿を見ていると、大人である私たちがこの時代に知識や時間を使って、将来この世界で活躍する子供たちのために何かしなければいけないと心から思う。

そして、これから私たちが生きる時代において、このようなオンラインツールが間違いなく必須になってくるだろう。もっともっと精度の高いものが生まれるだろう。

この新たな時代の中で、私たちが本当に大切にしているものは何なのか、1人1人が考えてみることをやってみてもいいのかもしれない。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)