フィギュアスケートの高橋大輔が4回目の五輪出場に前進した。

村元哉中と組んだアイスダンスでNHK杯日本勢最上位の6位。北京五輪出場枠1を巡る争いで、全日本3連覇中で最大のライバルになる小松原美里、尊組をリードした。

10年バンクーバー五輪男子シングルの銅メダリストが一度引退した後、アイスダンスへの転向を表明したのは2年前。もっとも、同じフィギュアとはいえ、まったく違う競技。昨年は伸びず、北京五輪出場はとても無理だと思った。

何よりもアイスダンス最大の見どころでもあるリフトに苦しんだ。滑りながら村元を持ち上げる時に「どっこいしょ」という感じ。元来のアイスダンサーとは明らかに違った。バランスをとるのが精いっぱい。見ているこちらまで力が入ってしまった。

ところが、今年はまったく違った。リフトが安定して、危なげもなかった。この1年、筋力強化に費やしたという。リフトのぎこちなさにかすんでいた持ち前の表現力が、かつてのように戻っていた。昨年から見違えるような成長だ。

演技を終えた高橋は「自信になった」と言った。昨年はコロナ禍で国際スケート連盟(ISU)非公認だったNHK杯だが、今回は本来のグランプリシリーズとしてISU公認で行われた。その大会でライバルの小松原組を上回ったのは、北京五輪代表争いの上でも大きいといえる。

何よりも大きいのは、高橋の転向によって多くの人が「アイスダンス」を知ったこと。高橋や浅田真央、羽生結弦らの活躍によって最近のフィギュアスケートは冬季五輪の中でも最も注目される競技になった。もっとも、人気があるのは男女シングルとペアぐらい。アイスダンスの認知度も低かった。

フィギュアスケート競技の中では新しい種目。冬季五輪では1976年のシャモニー大会から行われているとはいえ、男女シングルとぺアが24年に冬季大会が始まる前から夏季大会で行われていることを考えれば「新しい種目」といえる。

「氷上の社交ダンス」と呼ばれるなど「ダンス」の要素が強い。フィギュアの代名詞ともいえるジャンプがなく、リフトやステップワークなどで争う。より芸術性が求められる種目ともいえる。

米国やロシアなど欧米では盛んだが、日本での人気はいまひとつ。ジャンプのように失敗が明確に分かる場面も少なく、シングルのようなハラハラドキドキ感もない。日本勢の五輪最高成績も15位だ。

フィギュアの中では「マイナー種目」だったが、高橋は転向時に「アイスダンスにも注目してほしい」と言った。言葉通り、多くの人の目が注がれた。

昨年の演技で、アイスダンスの難しさ、過酷さ、シングルとの違いを示した。元シングル世界王者がミスを連発したことが、逆にこの競技の奥深さを感じさせた。「高橋でさえ苦戦している。アイスダンサーってすごい」と。

今年、見違えるリフトで得点を大きく伸ばした。北京五輪出場もはっきりと見えてきた。昨年からの成長の陰にあった苦悩と努力を知れば、ますますこの種目への興味は沸く。

フィギュアの選手は「競技者」であると同時に「表現者」でもある。ジャンプの成否にドキドキするのもいいが、優雅な美しさに心を揺さぶられるのも気持ちがいい。アイスダンスの大変さ、すごさを教えてくれた高橋のさらなる成長を見続けたい。【荻島弘一】

(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)