優勝を逃し、青学大4区岩見秀哉は泣きながらあいさつする(2019年1月3日撮影)
優勝を逃し、青学大4区岩見秀哉は泣きながらあいさつする(2019年1月3日撮影)

華やかな勝者の裏側には、失敗と挫折にまみれた敗者がいる。1月3日、そびえ立つビルの間を寒風が吹き荒れる大手町。箱根駅伝で5連覇を逃し、2位だった青学大がファン、関係者の前で結果を報告していた。出場選手が弁を述べる場で、ひときわ責任を背負い込んでいた2年生がいた。

4区の岩見秀哉。大勢の人の前に整列し、1区橋詰大慧、2区梶谷瑠哉、3区森田歩希主将(すべて4年)の言葉を聞いている時は気丈に立っていた。次は自分の番。礼をして、1歩前に出ると、言葉が出てこない。

約40秒。顔を上げられない。目頭を何度もぬぐう。「自分が…チームの目標である5連覇の勢いを止めてしまって…復路の選手に負担をかける形になってしまいました。1年間、4年生がチームを支えてくださり、力を付けることができたのに…最後、本当に情けない走りをしてしまいました」。震える声を絞り出した。

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岩見は8位から区間新記録の快走でトップに立った森田からたすきを受け取った。この時点で、原監督も5連覇をほぼ確信したという。しかし、岩見は東洋大の相沢晃(3年)に先頭を譲り、2・5キロ付近から突き放された。その後もペースは上がらず、1時間4分32秒は区間15位。東洋大と3分30秒、東海大と42秒差の3位に転落。手にした流れを失う分岐点となった。

何が起こったのか。まず悔やむのは平塚中継所。当時は日が差し込み、温かかった。手袋は置いていった。だがコース上は日陰が多かった。「日光がなくなって。気持ちは前にいっているつもりでしたが、体が全然ついてこなくて…」。ペースは速くなかったが、低体温症に陥った。15キロ以降は「力が全然出なかった。何とか、たすきを渡せたという感じでした」。小田原中継所では意識は薄れ、寒さが体を襲っていた。

視聴率は30%を超える箱根駅伝。それを勝って当然と見られるチームの一員。凡人には経験すらできない重圧が、存在するのは想像に難くない。「4日くらい前から日常生活でも、かなり緊張していた」という。しかも初の3大駅伝。「力を出し切るだけ」と何度も自分に言い聞かせたが「簡単にはいかなかった」とはやる気持ちは抑えられなかった。睡眠は「いつも通り」も、消化が悪いこともあり、食事量は少し落とした。調子は「少しずつよくなってきましたが、10日前はすごく悪くて。走りだしはよくても、途中からきつくなるイメージがずっとあった」。なにも魔物がすむのは甲子園やオリンピックだけではない。

兵庫・須磨学園高の出身。4学年上には青学大で2年連続3区区間賞で箱根制覇に貢献した秋山雄飛(24=中国電力)がいた。その偉大な先輩の姿、笑顔があふれるチームカラーに憧れた。青学大から推薦入学の話が届いた時は即決した。ただ思い焦がれる強い気持ちは、計り知れない気負いにも変わるのだ。

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特に岩見はメンバー入りが当落線上の選手だった。あの報告会。言葉を詰まらせた40秒の間、何が頭をよぎったのか。「自分はボーダーラインだったのに走らせてもらった。ギリギリで走れなかった選手へふがいないなと」。成長を後押ししてくれた4年生とともにエントリーしながら、10人の出場メンバーから落ちた6人の顔が次々と浮かんだ。箱根駅伝4連覇の栄光は同時に日本一厳しいチーム内競争を意味する。青学大なら控えでも、他校ならエース格の力を持つ選手は多い。

自らへの悔恨、連覇が4で止まった厳しい現実。それは簡単に受け入れられないだろう。ただ嘆くだけでない。きっぱりと胸中をこう口にした。「来年、再来年と自分にはある。優勝して今年の4年生、支えてくれたチームメートに結果で恩返ししたい」。何とも、その意気に胸打たれた。

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遊び尽くすこともできる大学生活を地道な鍛錬に費やし、その1年の集大成が箱根駅伝。そこには多くの人の生きざまが描かれる。日の丸を背負うスターもいれば、箱根を最後に引退する選手、もちろん舞台に立てず、サポートに回る者もいる。

見る者の側からすれば、圧倒的強さを誇るスターも憧れるが、挫折、苦難に立ち向かい、乗り越えた選手の成長物語も面白い。原晋監督(51)も「箱根の悔しさは箱根でしか返せない。練習あるのみ。3年生になったらチームを引っ張らないと」と話す。この日の涙が糧となり、花開く日がやってくるに違いない。そう、まだ挽回のチャンスは2度もある。その姿を見続けたい。【上田悠太】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆上田悠太(うえだ・ゆうた)1989年(平元)7月17日、千葉・市川市生まれ。明大を卒業後、14年入社。芸能、サッカー担当を経て、16年秋から陸上など五輪種目を担当。

小田原中継所に3位で到着した青学大4区岩見秀哉(2019年1月2日撮影)
小田原中継所に3位で到着した青学大4区岩見秀哉(2019年1月2日撮影)