PGAツアーでは早くも2017-2018年シーズンが幕を開けた。松山英樹は開幕第2戦目となるCIMBクラシックに出場し、5位タイとまずまずのスタートを切った。良かったショットは? と問われて「ゼロですね」と答えるなど、ストイックな松山は例によって自身のプレーには満足していないようだ。

●シーズン開幕直後はリフレッシュ期間

 PGAツアーのシーズン開幕は10月のセーフウェイオープンなのだが、トップ選手たちはこの時期の試合をスキップする事が多い。シーズン終盤の休みない試合出場によってたまった疲労の回復に充てるためだ。

 トップ選手たちが狙うのはあくまで4大メジャーやシーズン終盤のプレーオフ。そのためこの時期にミニキャンプを張ってスイングの改造をしたり、新しいギアを試したりすることも多い。ダンロップフェニックスへの出場エントリーを行った松山のように、合間を縫って日本のツアーにも参戦する選手もいる。今週行われるブリヂストンオープンに出場するマット・クーチャーもその1人だ。世界のトップ選手のプレーを間近で見えるのは何ともありがたい。

●感覚派からの転身

 PGAツアーでは20代中盤の若手選手が隆盛を極める昨今、クーチャーは今年で39歳。ベテランの域に達しているが、プレジデンツカップの米国代表にも選ばれるなど年齢による衰えはまったく見られない。

今年のマスターズ8番ホールでのクーチャーのティショット。マスターズは4位タイ
今年のマスターズ8番ホールでのクーチャーのティショット。マスターズは4位タイ

 クーチャーは現在クリス・オコネルというスイングコーチと、マイク・シャノンというパッティングコーチの2人とコーチングの契約をしている。どちらのコーチにも共通するのが「再現性の追求」だ。

 クーチャーはもともと器用な手先を生かしてクラブをコントロールする感覚派の選手だった。ゴルフを覚えた時代は今ほどクラブヘッドが大きくなかったので、小さなヘッドをコントロールしてボールを曲げてゲームを組み立てるというゴルフが主流だったという事もある。

 「もともとはインパクトのタイミングでフェースの向きをアジャストするように打っていたんだ。腕の動きを使ってフェースをコントロールするタイプのスイングだった」

 クーチャーが語るこの動きは、インパクト前後でフェースの開閉を行う事で飛距離も出るが、意図しない曲がりを生むリスクもある動きともいえる。

 「クリスと一緒に取り組むようになってからは、フェースのローテーションをなるべく抑え、インパクトゾーンでフェースが毎回同じように動くことを意識しているよ。ボールの曲がりが少なくなったことでシンプルにコースを攻められるようになったんだ」

 一発の飛距離を捨てて再現性を高める事でミスが少なくなり、結果として平均飛距離のアップにつながるという考え方は、アマチュアにも非常に参考になるものだ。

 またプロの場合は感覚に頼ってスイングを構築してしまうと、スランプに陥った際に良かった時の動きが再現しにくい。しかし普段からテクニカルな基準を設けておけば、修正すべき点が明確になるため立ち直りも早くなるのだ。昨シーズンは4大メジャー大会でベスト10に3回入るなど、長く一線で活躍し続けているのはこういった理由もあるだろう。

●ショットの前の「謎の素振り」

 クーチャーといえばショットの前にルーティンとして行う特徴的な素振りが有名だ。この素振りはPGAツアー内では有名で、バッバ・ワトソンが右打ちのクラブを試し打ちした際にちゃかしてまねするシーンを目撃したことがある。自身の持ち球は軽いドローなのだが、素振りはカットスライスを打つようにアウトサイド・インの形になっている。

 オコネルとの取り組みで、テークバックとダウンスイングでクラブの軌道が変わらないワンプレーンのスイングになったのだが、これを意識しすぎるとクラブ軌道が徐々にフラットになってきてしまう。それを補正するため、ショットの前にクラブをアップライトに上げ、フェードを打つようにインサイドに振りぬく素振りを行っているのだ。

 ショットの前の素振りはこうした体の動きへの意識を高める効果がある。ラウンド中につい修正したい癖が出てしまうアマチュアは、このようにわざと反対の動きを取り入れた素振りを取り入れてみてもいいと思う。

 今週はショットの動きとは異なるクーチャーの素振りにも注目だ。

クーチャー(左)とコーチのクリス・オコネル(右端)
クーチャー(左)とコーチのクリス・オコネル(右端)

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)