今週、PGAツアー2021年初戦となる「セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ」がハワイ州・マウイ島のカパルアリゾート・プランテーションコースで行われる。昨年活躍した選手が集まるエリートフィールドの中で、最も注目を浴びているのはブライソン・デシャンボー(27=米国)と言っていいだろう。


コモの研究用に改造された自宅。SNSではデシャンボーとバークシャーのスイング計測が行われていた
コモの研究用に改造された自宅。SNSではデシャンボーとバークシャーのスイング計測が行われていた

昨年、デシャンボーが肉体改造を経て手にした飛距離は、ゴルフ界の常識を変えてしまうほどの衝撃的な出来事だった。彼が7月のロケット・モーゲージ・クラシックで圧倒的な飛距離をひっさげて優勝して以来、他のPGAツアー選手はデシャンボーの飛距離に追いつくか、飛距離の差を埋める技術を身に付けるかの2択を迫られることになった。まさに、ゴルフ界は「アフター・デシャンボー」の世界に入ったと言っても過言ではない。

2021年に入っても、デシャンボーの挑戦はゴルフ界の話題の中心となることだろう。48インチドライバーへの挑戦はどうなるのか。また、400ヤードを超える飛距離は現実のものとなるのか、興味は尽きない。


パット・ゴス(左)に指導を受けるホブラン
パット・ゴス(左)に指導を受けるホブラン

オフの間、デシャンボーはコーチのクリス・コモの自宅に通い詰めていた。コモの自宅はモーションキャプチャー用のハイスピードカメラや地面反力を測定できる機材などを備えた研究施設に改造されており、そこで連日のようにスキルアップに努めていた。コモの自宅では2019年の世界ドラコン選手権優勝者のカイル・バークシャーとも交流しており、世界一の飛ばし屋に飛距離アップのエッセンスを学んでいたようだ。デシャンボーがさらなるスイングのアップデートだけではなく、アプローチやパッティングの技術を向上させることができれば、とんでもないモンスターになってしまうかもしれない。


■対抗馬はDJ、ホブラン、カントレーか


そんなモンスターに対抗できるのは誰なのか。今回は2021年注目の3選手をご紹介したい。まず、筆頭に挙げるのはダスティン・ジョンソン(36=米国)だ。本来、デシャンボーがいなければ、PGAツアーの主役になるのはDJだ。昨年は4勝を挙げ、現在世界ランク、賞金ランクともに1位と波に乗っており、キャリアの黄金期を迎えていると言っていいだろう。

メジャーでは何かと不運に見舞われることが多かったが、昨年11月のマスターズで優勝し、16年の全米オープン以来4年ぶりにメジャー2勝目を挙げたことで、プレッシャーからも解放されたことだろう。DJは平均飛距離310ヤード以上のドライバーショットだけではなく、ショートゲームやパッティング、そしてメンタル面も安定し、勝負どころで強さも発揮している。2021年シーズンはメジャーを複数回勝つ可能性もある。

昨年12月のマヤコバゴルフクラシックでプロ2勝目をあげたビクトル・ホブラン(23=ノルウェー)も、今年注目の選手だ。大学時代はマシュー・ウルフやコリン・モリカワと競い合い、世界アマチュアランク1位となるなど学生時代は最も注目を集めていた選手だったが、プロ転向後は同世代の選手に追い抜かれた感がある。特に、モリカワが昨年8月に全米プロゴルフ選手権を制したことは、彼にとって大いに刺激になっていることだろう。

ホブランの課題はショートゲームだが、昨年はブルックス・ケプカのショートゲームを指導するピート・コーウェンや、ルーク・ドナルドのコーチを務めるパット・ゴスなどベテランコーチたちに指導を受け、弱点の克服に余念がない。学生時代の2019年にはマスターズと全米オープンでローアマに輝くなど、メジャーでの経験も豊富だ。若武者がモリカワに続いてメジャーを初制覇する可能性は十分ある。

もう1人、注目している選手は昨年10月のZOZOチャンピオンシップで優勝したパトリック・キャントレー(28=米国)だ。キャントレーは総合的に高い次元のスキルを持った、弱点のない選手だ。特に素晴らしいのは力感のないスイング。上半身は脱力し、下半身を効率的に使ったスイングはプレッシャーに強い。スイングに力感がないにもかかわらず、平均300ヤードを超えるドライバーショットを放つこともできる。マキロイのスイングのような美しさやアスレチックさはないが、非常に効率的なスイングなのでアマチュアは参考にしてほしい。

キャントレーが波に乗ったときの強さは際立っていて、ZOZOチャンピオンシップでの逆転優勝は彼らしさが出ていた。最終日のバックナインで顔色一つ変えずプレーし、厳しいセッティングのピンをデッドに狙っていく姿はサイボーグかと思うほどだ。キャントレーはキャリア通算3勝だが、もっと勝っていてもおかしくないスキルを持っている。メジャーで勝つ条件をすべて兼ね備えている選手だ。

2021年の米ツアーはデシャンボーを中心に、この3人がどのように絡んでくるのか注目したい。それ以外にも、クラブ契約を変えたジョン・ラーム、復活を期するブルックス・ケプカ、勢いのあるマシュー・ウルフなど、世界ランキング15位以内は実力が拮抗しており、誰がメジャートーナメントを制してもおかしくない。果たしてデシャンボーはさらなる進化を遂げるのか。それとも、他に新たなスターが現れるのか。2021年のPGAツアーから目が離せない。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/