女子ゴルフで、渋野日向子フィーバーが続いている。全英女子オープンで日本勢42年ぶりのメジャー優勝を達成。帰国後も小気味いいプレーで、13位、3位と好成績を上げた渋野には、リスペクトしかない。その一方で、一部の取材者とギャラリーには、懸念を抱いてしまう。

私は記者として、宮里藍と石川遼のフィーバーを経験した。2人とも、1日2万人以上のギャラリーを集めたこともあった。その人気ぶりは、ゴルフの枠を超越したものだったが、現場ではトラブルもあった。あるカメラマンは、宮里の一挙手一投足を追う中で、同伴競技者がスイング中にシャッターを切った。選手は激怒し、宮里は悲しげな顔を浮かべた。石川がプロ転向前に出場した関東アマでは、テレビ局のヘリが上空を飛び、情報番組スタッフが、石川の同伴競技者に録音機を持たせようとして、大問題になった。

ゴルフは静寂の中で行われるスポーツで、プロは1打に生活を懸けている。普段から現場にいるゴルフ担当は、そのことを前提に動くが、フィーバーの流れでのスポット取材者が、認識不足でこのような事態を起こした過去がある。

渋野の現場では、まだ大問題は起きていないと聞くが、取材陣は増す一方で、NEC軽井沢72の現場では、あるギャラリーがロープ内にいる取材者に向かって「選手が見えない。邪魔だ」と怒鳴る場面があったという。そして、別のギャラリーは、渋野に向かって「笑ってよ。もっと笑顔が多いと思ったのに」とヤジったと聞く。

こんな調子だと、選手のメンタルは持たない。フィーバー当時、18歳だった宮里は大観衆の中で好プレーを続けた。しかし、ある日、髪の毛をかき分け、「ここがこんなことになってしまって」と、ストレスで円形脱毛症になったこと打ち明けた。スマイルシンデレラの渋野だって、重圧の連続で相当に疲弊していることだろう。

幸い渋野は、次戦を休む日程を組んでいる。プライベートで外出しても、声を掛けられる人気者になっただろうが、可能な限りリフレッシュに努めてほしい。来週には、再びカメラに追われるが、この小休止で、取材側は過去の教訓に学び、ギャラリー側にも「プレーヤーズファースト」の意識が、より広まることを期待したい。【元ゴルフ担当・柳田通斉】