女子ゴルフの2019年は「渋野フィーバー」に沸いた年でした。ツアールーキーで無名の存在だった渋野日向子(21)が8月のAIG全英女子オープンで、日本男女を通じ42年ぶりのメジャー優勝を達成。国内ツアーでも4勝を挙げ、最終戦まで賞金女王争いを繰り広げました。日刊スポーツでは「しぶこの足跡」と題し、今日から大みそかまでの7回、WEB連載で今季の戦いを再掲載します(毎日正午、掲載予定)。第1回は快進撃のプロローグ(序章)となったワールド・サロンパス・カップでのプロ初優勝。

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笑顔が涙に変わった。5月12日、茨城GC東Cで開催された国内メジャーのワールド・サロンパス・カップ最終日。ウイニングパットを沈めた渋野は、「黄金世代」の同期や、先輩の大出からウオーターシャワーの祝福を受けた。初めて優勝争いの緊張が消え、涙があふれた。表彰式後、3日連続の会見場に来ても「生まれて一番うれしいのかな。まだ緊張しています」とぎこちない笑顔をつくった。

11アンダーで並んで始まったペ・ソンウ(韓国)との一騎打ち。出だしの1番でボギーをたたき、渋野が先に崩れた。2番でバーディーを取って追いついたが、その後はまるでマラソンのような抜きつ抜かれつのデッドヒート。「いつも通りと言い聞かせたけど、昨日ほどの笑顔は出なかった」と、崩れそうになる自分と必死に闘っていた。

そんな渋野に、ゴルフの神様はほほえんだ。12アンダーで並んでいた16番で、ペが突然崩れダブルボギー。残り2ホールで2打差抜け出した。最後はバーディーを取ったペに対し、渋野は楽々パー。4バーディー、3ボギーの71で周り、通算12アンダーの276。1打差で競り勝った。

ツアー初勝利が国内4大メジャーという快挙のほかに、この大会での外国人連勝記録も4で止めた。初Vがメジャー大会は16年畑岡奈紗に続く日本人8人目。渋野は「私で良かったんでしょうか?」と困ったように苦笑した。

98年度生まれの「黄金世代」に入るが、プロテストは2度目の合格で、勝、新垣、小祝らより1年遅れでプロデビューした。勝や新垣がツアー初優勝を飾った昨年は、下部ツアーで苦戦。その中でつかんだのが「笑顔」だった。「去年までは喜怒哀楽を出すタイプだったけど、感情を出すとスコアを落とした。いつも笑顔でいようと気をつけるようになった」という。

体操教室で指導する母伸子さん(51)は、決戦の朝、教室の子どもたちがテレビで渋野を応援する動画を送ってくれた。「いつも笑顔でいなさい」。そう諭してくれた母に、母の日にビッグなプレゼントになった。

「こんなに早く優勝できるとは思わなかった。1勝だけでなく、2勝も3勝もできるように頑張りたい」。

この時は、ツアールーキーが勢いだけでつかんだ偶然の優勝だと思われていたかも知れない。

この1勝は快進撃の序章-。

この数カ月後、渋野が全英を制するなどとは、まだ誰も想像すらしていなかった。