日本女子テニス界に、規格外の新星が誕生した。大阪生まれの米国育ち。日本語よりも英語が流ちょうな大坂なおみ(19=日清食品)。180センチの長身から繰り出す時速200キロサーブを武器に、16年は100位以上も世界ランクを上げ、トップ50入りした。女子ツアーで、日本女子初の年間最優秀新人賞に選ばれた。20年東京五輪で金メダルを夢見る大坂の素顔に迫った。【取材・構成=吉松忠弘】

 インタビューは、大坂の話しやすさを考え、すべて英語で行った。しかし、3歳まで住んでいた大阪の思い出を聞いたときだ。突然、日本語が飛び出した。

 大坂 たこ焼き!

 浪速の血は、いまだに大坂の原動力。以前、外国記者に出身地と名字の関連性を聞かれ、こう答えた。

 大坂 大阪で生まれた人は、みんな「Osaka」っていうの。

 もちろん冗談だが、外国記者は目が点。それを見て人を食った顔でほくそ笑んだ。

 3歳の頃、家族で米ニューヨークに移り住んだ。その時は、今と違い日本語しかしゃべれなかったという。今では逆に日本語を勉強中。緊張しながらも、片言をしゃべる。

 大坂 私が(日本語を)理解していないと思われると思うと緊張しちゃう。慌てると、ラップのように聞こえるんだもの。

 シャイで消え入るような声で話す。プレーは、正反対に豪快。展開力や安定性など課題はあるが、それでも、16年は自己最高の世界40位へと飛躍した。

 大坂 15年までは、年齢制限で出場大会数が限られていた。数少ないチャンスで結果を出さなくちゃいけなかったから重圧だった。

 16年に18歳となり、出場制限数から解放された。出場した4大大会3大会ですべて32強入り。9月の東レでは、初のツアー決勝に進んだ。

 大坂 たくさん注目を浴びたけど、私自身は何も変わってないわ。もう慣れたし。

 父フランソワさんの手ほどきで、3歳でテニスを始めた。父はテニス未経験だったが、ウィリアムズ姉妹からヒントを得た。

 父 姉妹を見ていて、何かできるかなというひらめきかな。ジュニアではなく、なるべく大人の試合に出場させたのも、ウィリアムズ姉妹から学んだ。

 大坂は、1度も国際テニス連盟主催の世界ジュニアツアーに出場していない。その間、米国内でジュニアと一般の試合を掛け持ちして成長した。

 飛躍のきっかけは、16歳だった14年7月に米カリフォルニアで行われたツアー大会。予選を勝ち抜き、1回戦で、元全米女王のストーサー(オーストラリア)を破った。そこで、憧れのウィリアムズ姉妹の妹セリーナと初対面した。

 大坂 彼女の存在感はすごい。1-4とか、劣勢な時でも、必ず見ている人は、彼女は勝つと信じているし、実際に勝っちゃうもの。

 緊張で何も聞けない大坂に、セリーナは「どこに住んでるの?」「姉妹がいるのは同じだね」と話しかけたという。今では、大坂のことを「最も危険な選手の1人」と絶賛する。

 ウィリアムズ姉妹と同様に、大坂の姉まりもプロのテニス選手だ。大坂はいつも姉の背中を見て育ってきた。

 大坂 負けず嫌いだから、私がテニスを始めたのも、姉に負けたくなかっただけ。

 2人は毎日、練習試合を行い、大坂は姉に負け続けた。

 大坂 12年間、1度も勝てなかった。でも15歳の時、初めて勝ったの。信じられる? 姉は足が痛かったって言い訳してた。ひどい!

 姉に勝つのが夢で、それがツアーのどんな勝利よりもテニス人生で最高の思い出だという。その思い出も、20年東京五輪で塗り替えられる可能性がある。

 大坂 スポーツ選手なら、誰もが五輪に出たいし、金メダルがほしい。東京でチャンスが来るなら、スーパーグレートよ!

 今は日本と米国の両国籍を持つ。気持ちは日本人である母環(たまき)さんの影響で日本に近い。

 大坂 朝食などの食事で、日本の影響を強く受けたし、日本文化の中で育った感じがするの。東京も好きだし、人も親切。挙げたらきりがない。

 17年2月の女子国別対抗戦フェド杯で初の日本代表が濃厚。五輪ももちろん日本代表での出場を狙っている。

 大坂 そのためにも、4年後には世界1位になって、4大大会とフェド杯で優勝していたい。

 17年は1月2日に開幕するASBクラシック(ニュージーランド・オークランド)から始動する。まだ19歳。男子の錦織圭に続き、日本女子にもスター誕生の予感がする。

 ◆大坂(おおさか)なおみ 1997年(平9)10月16日、大阪市生まれ。13年プロ転向。16年東レ・パンパシフィックでツアー初の決勝進出を果たし、ウィンブルドンを除く4大大会ですべて3回戦に進んだ。父でコーチのレオナルド・フランソワさんはハイチ出身の米国人で、母が日本人。現在の世界ランクは48位。好きな音楽はラップ。趣味はゲーム。180センチ、69キロ。

 ◆年齢での出場大会制限 若年層の燃え尽き症候群を防ぐために、年齢を区切って、出場できる大会数を決めている。14歳未満は、プロ大会に出場不可。14歳から15歳未満で、初めてプロ大会出場を許可され、ツアー下部大会最大8大会まで出場できる。15歳で初めてツアーに出場できるが、最大10大会まで。18歳になると、大会数の制限はなくなる。