昨年11月の右足首負傷からの復帰戦だった冬季オリンピック(五輪)2連覇の羽生結弦(24=ANA)がSP(ショートプログラム)3位で迎えたフリー2位の206・10点をマークし、合計300・97点で銀メダルを獲得した。SP1位のネーサン・チェン(19=米国)がフリーも1位となり、現行ルールで世界最高の合計323・42点で2連覇。宇野昌磨(21=トヨタ自動車)は合計270・32点で4位。田中刑事(24=倉敷芸術科学大大学院)は14位で日本勢は来年の出場枠で最大3枠を確保した。

  ◇   ◇   ◇  

逆転Vを逃した羽生は、潔い表情で胸の内を明かした。「まずはショートとフリーでミスをなくすこと。それでも多分、ギリギリ勝てなかったと思う」。五輪2連覇の王者は、うすうす負けを悟っていた。

運命の午後9時2分。全てが決まるといっていい冒頭の4回転ループ。高く舞い上がったジャンプを、氷が柔らかく包み込んだ。続く4回転サルコーも決め、フリーでは世界初となる4回転トーループとトリプルアクセル(3回転半)の連続技もそろえると、最後は右手で強く握り拳。会場内の雰囲気が、大逆転を予感させた。

それでも届かなかった。同じ、3種類4本の4回転ジャンプを跳んだチェン。違いは難易度だった。ともにトーループには挑んだが、チェンのルッツとフリップは、羽生のループ、サルコーより基礎点が高い。出来栄え点による加減はあるが、勝負の前から差がついていた。「完全に実力不足。ルッツ、フリップ、アクセルと得点源になるジャンプはそろえたい」。注目されているのは、史上初の4回転アクセル。「もちろん跳びたい。試合で跳ばないと意味がない」と、来季に向けて4回転ジャンプ全種類制覇を目指す。

昨年11月のグランプリ(GP)シリーズロシア杯で右足首を負傷し、練習を開始したのは年明けの1月中旬から。約4カ月ぶりに戦いの舞台に戻ってきたが、状態はよくなかった。今でも痛み止めの薬が必要で、同じ箇所を負傷して挑んだ昨年の平昌(ピョンチャン)五輪の時よりも悪いという。ただ、言い訳はしなかった。「負けには負けの意味しかない。はっきり言って、自分にとって負けは死も同然」。五輪2連覇の王者は、自らをあっさりと切り捨てた。

演技終了後。観客に向かって礼をして頭を上げると「ただいま」とつぶやいた。万雷の拍手を浴びて、大観衆が温かく羽生を迎え入れた。だが現状に“長居”はしない。「次のシーズンに向けて時間はある。ケガしないように、その上で追随されないくらい強くなりたい」。羽生の新たな旅が、ここからまた始まる。【佐々木隆史】

◆4回転ジャンプ 6種類ある。前向きに跳ぶ「アクセル」を除く4回転で最も難しいのが「ルッツ」、続いて「フリップ」、「ループ」、「サルコー」、「トーループ」の順。最も難易度の高いとされるクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)は成功者がいない。