全日本選手権にはさまざまな思いが交錯する。ショートプログラム(SP)20位の山田さくら(22=立命大)に待っていたのは、コーチからのサプライズだった。フリーは3回転フリップで転倒するなど、87・93点の合計138・92点で23位。上位には及ばないが、得点発表を待つ「キス・アンド・クライ」に歩みを進めると、かつて町田樹らを指導した大西勝敬コーチから桜の造花を手渡された。
「お疲れさま。わざわざ探してきたんだぞ」
自らの名前に用いられている「さくら」。今季限りで現役引退を決め、最後の全日本選手権だった22歳は、思わず涙を流した。
「むちゃくちゃ悔しいけれど、先生からは『笑顔で』って言われて、それだけはできたかなと思います」
拠点が関西からか、普段はツッコミを入れ合う師弟関係だ。
「優勝せなあかんやろ」
「無理やし」
そんな言葉もかけあえる。山田は大学4年生のシーズン前から「今年が最後と思ってやっていきたい」と決意してきた。来春からもスケートに携わる道を目指すが、競技者として残すのは卒業までの数試合のみだ。
大観衆に見守られ、笑い、泣いた全日本選手権が終わった。
「『最後か…。終わりなんだな』っていう思いがこみ上げてきました。最後まで諦めずにやったら、ここまで来られた。今後にもプラスになると思います」
あふれ出る涙をぬぐいながら、気持ちを前に向けた。【松本航】