フィンランド発の新スポーツ「モルック」が流行の兆しを見せている。

12本の木の棒(スキットル)に3~4メートル離れた場所から木製のピン(モルック)を順番に投げ、倒した本数などで得た得点をピッタリ50点にする速さを競うもので、日本モルック協会は「ボウリングとカーリングとビリヤードが交ざったようなもの」と表現する。昨年8月に人気お笑いコンビ「さらば青春の光」の森田哲矢(38)が芸人仲間とチームを組んで日本代表として世界大会に出場し、徐々に知名度も向上。大人も子どもも気軽にプレーできるモルックの魅力に迫った。

モルックは1対1でもチーム人数が違っても対戦でき、激しい動きもなく老若男女で楽しめる。スキットルが動く度に状況が変わるため、常に味方とコミュニケーションを取る必要があり、相手との駆け引きも行う。頭を使う「ハマると深い」スポーツだ。

仕事の赴任先だったフィンランドで競技に出会い、11年に日本モルック協会を立ち上げた八ツ賀秀一会長(46)は「一見、スポーツっぽく見えませんが、投げたモルックは自分たちで拾い、1度倒れた棒もまた立てなければいけない。地味にスクワットの動作が多いので、意外と足腰が筋肉痛になるんですよ」と話す。

モルックは、もともとフィンランドで雪の降らない夏場限定で楽しまれていたもので、日本で言うとお正月に行うイメージの強い羽子板などに似た感覚だという。基本的には屋外で行うが、一定の広さがあれば室内や庭などでも十分楽しめる。

八ツ賀会長は「庭でもできるし(室内で)約半分の大きさのミニモルックで戦略を考えたり、布団などに投げてこっそり練習する人も多い」と語っており、新型コロナウイルスの感染拡大で長引く在宅生活で興ずることもできそうだ。

コロナ禍で外出自粛の呼びかけが行われる前は、公園などでモルックを楽しむ人を見かけることもあった。世界大会を経験した「さらば青春の光」の森田は出演したテレビ番組などで共演者にモルックを勧め、その面白さを広めた。

森田は「ルールが簡単で秀逸すぎる。試合後半にスキットルが遠くに離れてどんどん難しくなっていくのも面白い。誰でもできるし、やればやるほどうまくなりますよ」と語る。

今年1月には自身が主催の一般向け大会を都内で開催。大学にモルックサークルができた話を聞くなど流行の手応えもつかんでおり、実際にインターネットや量販店で購入できたモルックセットは現在品薄状態が続いているという。

フランスで行われた世界大会には芸人仲間の、みなみかわ、金井貴史らと「キングオブモルック」を結成して挑み、惜しくも2次予選敗退。世界のモルッカーたちのレベルには驚かされたという。

「体が大きくてリーチも長いから、パワーもあるし、簡単に当てているように見える。うまいところはあんまりミスしなかったですね」

悔しさも味わったが、対戦相手と必ず集合写真を撮ったり、互いの国から持ち込んだお土産を交換したりと、モルック界ならではの国際交流も楽しんだ。

森田は「喜ばれるかなと思って、僕らも日本から持って行ったお箸を渡しました。モルックを面白いと思って、うまくなりたいと思ってやっていると思うだけで仲間意識もわきましたね」と振り返った。

さらなるモルック人気の拡大へ。現在、日本モルック協会は一般社団法人化へ向けて動いており、スポンサーを集める体制を整え、自費となっている選手の世界大会渡航費補助の実現などを目指していくという。

森田も「お金さえあれば高校とかにも道具を配って『モルック甲子園』とかもやってみたい。コミュニケーションツールとしてもいいので、ダーツバーみたいな“モルックバー”を作ろうと考えたりもしました」とさらなる認知度向上へ意気込む。理想に掲げるのは「もぐもぐタイム」などで話題となった18年平昌五輪のカーリング。

「一番近いカーリングがあそこまで盛り上がったなら、モルックもいけるんじゃないか。モルック女子を増やしたいですね。いつかは五輪競技にもなってほしい」と願う。

そんな中で世界を襲ったコロナショックはモルック界にも打撃を与えた。八ツ賀会長が「森田さんの影響も大きいですが、メディア露出も増えて、一気に流行に乗るぞというところでコロナの影響が出てきてしまった」と嘆く通り、多くの国内大会は中止に。4月23日には国際モルック連盟から8月にフィンランドで開催を予定していた世界大会の中止も発表された。

2年連続出場を狙っていた森田も「この状況は歯がゆいですね」とポツリ。また思いきりモルックができる日まで。「STAY HOME」での自主練習を呼びかけ「家ではペットボトルに水を入れて投げるだけの練習とかもできる。YouTubeにはいろんな動画もあがっている。それをしっかり見て、来るべき時に備えていてほしい」と力を込めた。【松尾幸之介】

 

◆モルック フィンランドのカレリア地方に伝わるゲーム「キュッカ」をもとにつくられたスポーツ。1から12までの数字が書かれた木の棒(スキットル)を立て、3~4メートル離れた場所から木製のピン(モルック)を足元から振り上げるように投げ当てて倒す。1本だけ倒した場合はピンに書かれた数字、複数倒した場合は倒した本数が得点になる。各チーム1人ずつ順番に投げ、相手より先に50点ちょうどになったら勝利。得点が50点を超えた場合は25点に減点して継続し、3度連続でスキットルを1本も倒せないと失格となる。15年に国際モルック連盟が発足。競技人口は世界で約3万人、日本で約5000人。平時であれば日本各地で練習会も開催している。毎年約200チームが参加する世界大会での日本代表の過去最高成績は16強。