東京オリンピック(五輪)の顔役が、開催を訴えた。体操男子で五輪個人総合2連覇の内村航平(31=リンガーハット)が、コロナ禍で開催へ厳しい見通しが続く国内の雰囲気に、「できないじゃなく、どうやったらできるかをみなさんで考えてほしい」と意識変化を求めた。感染拡大後、国内で行われた初の国際大会。モデルケースとして注目が集まる中で、声を上げた。金メダルを狙う鉄棒の演技ではH難度の大技に初成功した。

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暗転した閉会式の会場で、スポットライトが内村を照らした。黒いマスク姿でも、引き締まった表情が分かる。この数カ月、思い悩み、伝えたいことがあった。東京大会を開くために設けられたこの大会、この場所しかないと思っていた。決意のスピーチだった。

「僕としては残念だなと思うことは、コロナの感染が拡大し、国民の皆さんが五輪ができないんじゃないかという思いが80%を超えていると。しょうがないとは思うけど、できないじゃなく、どうやったらできるかをみなさんで考えて、そういう方向に変えてほしい。非常に大変なことであるのは承知の上で言っているのですが、国民のみなさんとアスリートが同じ気持ちでないと大会はできない。なんとかできるやり方は必ずある。どうかできないとは思わないでほしい」。

逆風にあえて、言葉を伝えたかった。感染対策で2000人に限定された観客からは、この日一番の拍手が起きた。2年ぶりの国際大会。「練習をうまくできない選手もいたり、試合がなくなった選手もほとんど。みんな久々に会い、その感情をこの大会にぶつけて化学反応が起きて、僕としては非常に良い大会だった」と高揚感もあった。観客にも背中を押された。その一体感に、思いが増した。

大会へは「偽陽性」と判断される事態も味わった。今大会はホテルと会場の往復以外は外出禁止など、多くの制約があった。それでも心身共に強さを見せた。試合をでき、訴える場に立てたことに価値があった。「国民のみなさんの支持が少しでも上がってくれれば」。演技を超え、試合を超え、言葉には使命感があった。【阿部健吾】

○…21年に競技史上初めてとなる体操と新体操の世界選手権の同時開催が決まり場所が北九州市と発表された。同地は内村の出生地で、「自分の生まれた国で五輪ができるだけでも幸せですが、生まれ故郷で世界選手権ができる。この上ない幸せが来年あるんだと思ってます」と喜んだ。