羽生結弦(26=ANA)が帰ってきた。24日、約10カ月ぶりに実戦復帰するフィギュアスケート全日本選手権(27日まで長野市ビッグハット)に備え、会場での公式練習を行った。

新型コロナウイルス感染拡大下、今季は全戦欠場。4大陸選手権(韓国)以来319日ぶりに氷上に立ちフリーの新プログラム「天と地と」を舞った。同じく新演目のショートプログラム(SP)は「レット・ミー・エンターテイン・ユー」。25日の今季初陣で披露する。

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羽生が319日ぶりに公の場へ姿を見せた。5年ぶりの頂点へ、1並びの午前11時11分に会場入り。白ジャージー、プーさんティッシュ箱。いつもと違ったのはマスクを着けたまま滑ったことだった。体が温まると外し、中央で動きを止める。SP、フリーともに新演目。注目の曲かけ練習で流したのはフリーだった。

三味線や琴の音を織りまぜ、和テイストを融合させた荘厳な楽曲。この地、長野・川中島を舞台にした69年の大河ドラマ「天と地と」だ。4回転ジャンプは高難度のループに、サルコーとトーループ2本。SPは「レット・ミー・エンターテイン・ユー」で、ロビー・ウィリアムズのロックナンバーだった。「わき上がるような感情になってもらえたらうれしい」。新型コロナ禍で沈む人々へ、前夜に話した「誰かの心に感情をともす」願いを込めた。

約10カ月ぶりの登場。コロナ禍の生活も初めて語った。グランプリ(GP)シリーズは欠場したが「考えは変化なく、やはり感染拡大につながる行動はしたくない。全日本が近づくにつれて第3波…。僕が出ていいものか、かなり葛藤があった」と明かした上で、自身を奮い立たせる意味合いも打ち明けた。「(来年3月の)世界選手権に向け、選考会の全日本には必須で出ないと」。特殊な世の中でも特例で出るつもりはない。「自分自身の希望をつなぐために出させていただいた」と本音も漏らした。

コロナ禍の中、拠点のカナダに戻れず仙台など国内で調整した。「毎日1人でコーチなしで。家族以外とはほぼ接触せず(練習以外で)外に出ることは全くなかった」という。その副産物が初のセルフ振り付け。ジャンプやスピンの配置以外はオリジナルで、羽生プロデュースの羽生が今日25日のSPでベールを脱ぐ。

男子史上初の世界主要6冠「スーパースラム」を達成した2月9日以来320日ぶりの公式戦。「もちろん表彰台の真ん中に立ちたい気持ちが強い。ベターではなくベストな練習ができた」と言い訳なく、連戦で疲弊した昨季までと違い「体力もある」と退路も断った。最後に「ふふふ」と笑顔を取り戻した冬季五輪2連覇王者が、まず昨年2位の借りを返す。【木下淳】

<羽生とオンライン一問一答>

-公式練習を終えて

羽生 久しぶりに複数の人数でリンクに乗って練習した。まだ感覚をつかめてないところもあったけど、ある意味、それもまた新鮮で。僕にとってホント久しぶりで楽しい感覚もありました。

-新型コロナ禍における練習。1人で練習する難しさは

羽生 悩み始めると、どうしても、自分の負のスパイラルに入りやすい。その中で、うまくコントロールするすべや、1人だからこその深い分析ができた。外的要因ではなく、自分の原因の中でどのように調子が悪くなって、調子が良くなるのか経験するいい機会になった。僕にとってはスケートに集中できる環境だったし、いい練習はできたなと思う。

-SPのジャンプ構成は

羽生 前半に4回転サルコーと4回転トーループ-3回転トーループのコンビネーション、後半にカウンターからの3Aをやる予定です。

-新プログラムで表現したいことは

羽生 もちろん題材となるストーリー、伝えたいストーリーはあるけど、そういうのに縛られず、見ていただいた方の感触というか背景に訴えられればいいかなと。