全日本柔道連盟(全柔連)の前事務局長による複数の職員へのパワーハラスメント疑惑を受け、山下泰裕会長(63)が26日、東京・講道館で記者会見を開いた。前事務局長が今年1月に音信不通のまま自己都合で退職。聞き取り調査を行えなかったことを理由に、パワハラ認定はできず“疑惑”であることを強調した。日本オリンピック委員会(JOC)会長など重職を兼務する山下氏は、一連の騒動の責任を取り全柔連会長を辞任する可能性を示唆した。

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柔道界に激震が走った。全柔連の前事務局長が、職員に対して威圧的な言動を繰り返すなどパワーハラスメント疑惑が明らかになった。山下氏はこの日、緊急会見を開き「最高責任者としての私の責任が非常に大きい。問題自体にも気づけず恥ずかしい。職務を果たせなかった」と陳謝した。

19年6月に就任したJOC会長などの要職と兼任。コロナ禍での東京オリンピック(五輪)延期など課題は山積で、多忙を極めている。全柔連事務局を訪れるのも月1日程度に激減した。「正直、私には(兼任が)難しいのではないかと思う。(進退については)全ての可能性があるが、自分だけでは勝手に判断できない」と、全柔連会長を辞任する可能性も示唆した。

昨年4月、全柔連で発生した新型コロナウイルス集団感染の原因を調べる過程でパワハラ疑惑が発覚。全職員に聞き取りを行い、当初は前事務局長を含む3人の管理職にパワハラ疑惑があった。11月のコンプライアンス委員会からの報告書には、前事務局長のみ「パワハラの存在を指摘」との記載があった。内容は罵倒発言や業務時間外での労働要求などで、全柔連の規定では山下会長ら執行部に対応を一任していた。

前事務局長は、コンプライアンス委の聞き取り調査ではパワハラを否定。しかし、山下会長の聞き取りには応じず、12月1日に辞表を提出。翌2日から有給休暇を取得し、音信不通のまま今年1月に自己都合で退職した。山下氏は「弁明の機会を与えなければ、職員の処分はできない」と説明。そのためパワハラ認定されず、“疑惑”であることを強調した。就業規則の観点からも「外部報告する事案でない」と判断し、隠蔽(いんぺい)を否定した。

全柔連は13年に発覚した女子代表の暴力問題以降、内部通報窓口を設置するなどパワハラや暴力行為への対策を講じてきた。くしくもその窓口が前事務局長でもあった。

山下氏は17年6月に全柔連会長に就任し、今年6月に2期目で任期満了となる。63歳の日本柔道最強の男は、45分間の会見を終えると、その表情は疲れ切っている様子だった。東京五輪が5カ月後に迫る中、柔道界に再び試練が訪れた。【峯岸佑樹】