柔道においての丸刈りとは-。柔道の全国高校選手権が、東京・日本武道館で無観客開催された。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2年ぶりに行われ、今年は男女個人戦のみ実施された。

最終日の20日には、男子5階級が行われた。記者は2年ぶりに会場で高校生たちの熱戦を見たせいか、「丸刈り」が多いことにやや疑問を抱いた。目視での確認だったが、出場選手235人のほぼ全員が丸刈り。数日前に刈ったと思われる五厘刈りや、少し伸びた丸刈りなど髪の長さはさまざまだった。このご時世で…と思った一方、全国の強豪校ばかりが集う年1回の大舞台で「これぞ柔道」と言われると納得してしまう。しかし、選抜高校野球よりも丸刈りが多いように見えて不思議に感じた。

時代とともに、丸刈りに関しての議論が起きることは当然だ。ただ、賛否の意見がある中でも、高校生だけでなく、小学生や中学生でも「全国大会」となると、現在も丸刈りが圧倒的に多いのが柔道。強豪校などの指導者らに聞いても、強制ではなく、あくまでも「髪形は自由」で生徒らが自ら刈っているという。

柔道の場合、髪が長いと組み手争いや寝技の攻防の際に邪魔になることが考えられる。このような競技性の理由のほか、「学校の伝統」「気を引き締めるため」「験かつぎ」「理由は分からないがお決まり」「外見で相手を威圧するため」などさまざまな声があった。大会直前になると、士気を高めるために「部員全員が五厘にする」という学校もあり、顧問の男子監督も丸刈りにすることもあるという。

ある柔道関係者に聞くと、柔道の丸刈り文化は、歴史的背景も一因にあると指摘する。そもそも「柔道=武道」であることを強調した上で、「柔道は今でも武士道に近い考え方も持つ。特に戦時中などの貧困時代は、衛生面の問題から男の子は丸刈りが基本だった。その影響は現在も多少残っていると考える」と説明した。特にジュニア(20歳以下)の国際大会などを見ると、海外選手に比べて日本選手の方が圧倒的に丸刈りが多いと感じる。

もちろん、丸刈りが悪ではない。私見だが丸刈りが似合う柔道家はたくさんいる。個人的に挙げると、1位は男子66キロ級で五輪2大会連続銅メダルの海老沼匡(31=パーク24)。五輪や世界選手権などの大舞台前には、原点回帰の「初心」に戻るために丸刈りにしていた。2位は体重無差別で争う全日本選手権を3度制した王子谷剛志(28=旭化成)。小学生の頃、丸刈りで世界選手権100キロ級3連覇を達成した男子代表の井上康生監督(42)に感銘を受け、全日本選手権時には必ず丸刈りで臨むことを決めている。3位は東京五輪男子66キロ級代表の阿部一二三(23=パーク24)。兵庫・神港学園時代には整った丸刈りで、精悍(せいかん)な顔立ちと非常にマッチしていた。

2日前。全国高校選手権取材時に、ふと思った。多くの人が会場の日本武道館周辺に咲く桜に足を止める中、個人的にはそれ以上の“春の風物詩”を感じた。2年ぶりに開催された高校日本一を決める大会で、丸刈りの選手たちが全力で繰り広げる激闘の数々-。新年度を迎えるにあたり、自身も学生時代に丸刈りだった頃を思い返すと同時に、なんだかすがすがしい気持ちになり、心が洗われた時間だった。【峯岸佑樹】