須山晴貴(23=栃木県スポーツ協会)が、19位で五輪切符を逃した。上位18人の準決勝まで、わずか4・35点届かず、号泣した。

5本目を終えて19位。準決勝圏内までわずか0・30点差で迎えた。最終の6本目は「5154B(前宙返り2回半2回ひねりえび型)」。この1本、わずか2秒弱ですべてが決まる。そんなしびれる場面で板の上に立った。踏み切りは板の先端でぴたり。しかし入水で回転をオーバーして、足が水面を打った。水しぶきが立って、61・20点。18位に届かないスコアを見て黄色のタオルで顔を覆った。

「順位を気にしないで、自信をもっていった。でも試合で気持ちも体の状態も上がっていた。普段よりもいい演技ができすぎて、体の動きを処理しきれずに、オーバーしてしまった」。

「この半年はマイナスからのスタートだった」。

昨年11月に、陸上トレーニング中に左膝を負傷した。「踏み込んだ時に、左膝が内側に入ってしまった」。半月板を損傷して、すぐに手術。五輪世界最終予選まであと半年だった。入院が1カ月、患部の固定が3カ月。「ぎりぎり間に合うんじゃないかな」と希望を失わず、治療に努めた。

今年3月中旬にやっとプールに入った。膝の痛みがぶり返して、練習を2週間、休んだこともあった。周囲から「本当に出られるのか」「須山で大丈夫か」という不安視する声も耳に届いた。日本代表として五輪切符がかかる試合に挑む以上、当然の指摘だった。

須山は「3月はまだ種目も仕上がってなかった。やり始めたばかりで、そう言われることは当たり前。ナショナルチームを落とされるぐらいまでいったが、自分を信じてやってきた」。膝の状態は良くなかった。ベッドの中でズキズキとうずく痛みで目が覚めた。練習をやりすぎると、1週間も飛べなくなることもあった。日常生活に支障が出るほどの痛みだった。

それでも板の上に立った。予選では1本目が58・50点で54人中36位スタート。その後は23位→12位→14位と順位を上げた。しかし5本目で入水が乱れて60・45点と伸びなかった。この時点で準決勝圏外の19位。ラストダイブに逆転をかけたが、試合のアドレナリンが練習通りの演技を失わせた。「今日は膝の痛みも少なくて…」と、いつもよりも動きすぎた体を悔やんだ。

飛び込みは、わずか2秒弱の間に、練習と同じ動きをどれだけ忠実に再現できるかを争う競技。意気込みすぎれば、回転がオーバーして、落ちつきすぎると回転がショートする。どちらも水しぶきにつながる。平常心以外はすべてが試技にとってマイナスになる。須山は「何とか戦えるんじゃないかというレベルまでもってきたが。19番は19番。そのあとひとつが自分の実力。この大会は結果を求めていた。未熟だと思う」。

須山は、高難度の種目をそろえて、自己ベストの462・30点は19年世界選手権5位相当にあたる。一方で板を踏み外して0点になる大失敗も。見ている側をハラハラさせて「周囲から『やらかす人』と言われる」とおどけたこともあった。この日は大きなミスはなく、できる限りの演技をした。「結果は残せなかったが、自分を誇りに思います」と口にして、また目に涙を浮かべた。【益田一弘】