女子テニスで、世界2位の大坂なおみ(23=日清食品)が31日(日本時間6月1日)に自身のSNSを更新し、全仏オープン2回戦を前に棄権すると電撃的に発表した。大坂は、棄権の理由として「ほかの選手や私自身の健康のため、そして、選手がテニスに集中できるように、私が棄権することが最善の方法。邪魔者だけにはなりたくない」と明かした。また、うつ病だったことも公表。「18年全米以降、長い間、うつ病に悩まされ、その対処に本当に苦労してきた」とした。

コート上で、突然、泣きだす大坂を何度も見てきた。20年2月のフェド杯対スペイン戦。敵地で日本代表NO・1として出場した。苦手の赤土で不安が増大。78位の相手に、第1セットを1ゲームも奪えずに失うと、第2セットはコート上で泣きだした。試合にならなかった。

敗戦で打ちひしがれる選手も、何度も見た。ただ、試合後や会見で涙を見せる選手はいても、コート上で突然、泣きだす選手はめったにいない。他の日本選手の誰もが口にした「(大坂は)自分とは全く違う立場にいる」ことへの重圧や不安は、大坂の心をかき乱したのだろう。

大坂が言うように内向的だとは思う。そして間違いなく「シャイ」だ。2回、単独インタビューを行ったが、最初の時は父フランソワさんが同席。なかなか目を合わせてくれなかった。2回目は、マネジャーも離れた場所におり、たった1人でにこやかに対応。シャイで人見知りなのは明らかだった。

18年全米と言えば、S・ウィリアムズ(米国)との決勝だ。大坂にとっては、「セリーナがいなければ、私はテニスをしていなかった」と言うほど、憧れとの4大大会決勝。夢が現実になった瞬間だった。

しかし、4大大会の歴史を見ても、とんでもない騒動に発展した。セリーナは審判のジャッジに怒りをあらわにし、毒づき、ラケットを折り暴れた。2万人を超す観客が一斉にブーイングの嵐。その中、大坂は優勝し、表彰式では「みんながセリーナを優勝させたかったのにごめんなさい」と謝った。

大坂のトップへの道は、その異様な世界から始まったのだ。ネット上で握手の時、ペコリと頭を下げる20歳は、魑魅魍魎(ちみもうりょう)で渦巻く弱肉強食、そして大きなスポーツビジネスの世界に放り込まれた。昨年の人種差別への抗議では「シャイでいることをやめた」と、この異様な世界との共存を望んだ。事実、強いメッセージを発することで、「シャイ」である自分に目をつぶった。

本当の自分の姿ではないことが、重荷だったのかもしれない。自分が先頭に立ち、リーダーシップを握るタイプではなかったのだろう。人前で話すことが苦手なテニスがうまい23歳は、じわじわと追い込まれていったのかもしれない。【吉松忠弘】

◆全仏オープンはWOWOWで全日生放送、同時配信される。