体重無差別で争う柔道の全日本選手権が29日、東京・日本武道館で3年ぶりに行われる。

昨夏の東京五輪で金メダルを獲得した男子60キロ級の高藤直寿(28=パーク24)がインタビューに応じ、最軽量で挑む4年ぶり2度目の日本一決定戦への覚悟を語った。

73キロ級の大野将平(30=旭化成)も5年ぶり3度目の出場に向けて練習を公開。全47選手のうち1、2番目に軽い2人はともに初戦で90キロ級の選手と対戦する。【取材・構成=木下淳、阿部健吾】

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2度目の全日本に、高藤が金メダリストとなって帰ってくる。前回は世界選手権、今回は五輪の覇者として推薦出場。「4年前より多くの方に見てもらえる。前回は楽しもうと思っていたけど、今回は楽しませたい。金メダルを取ったからには、盛り上げる側にいかないと」と挑戦を決めた。

東京五輪を制して達観した。16年リオデジャネイロ五輪は銅メダル。当時は「次、どう勝つか」しか考えていなかったが、頂に立った今回は「いつ死んでもいいくらいの感覚。今できることは、試合に出て見せること。柔道人口の減少とか全国小学生大会の廃止とか暗い話題が多いけれど、まずは僕らが憧れの存在にならないと。引退してから発信しても遅いので」。無謀と言われようが、体重無差別への挑戦につながった。

昨夏以来の実戦復帰となった3日の全日本選抜体重別は決勝で古賀玄暉に敗れた。最大で12キロも減量し、腰や指の激痛、体調不良もあった。万全には遠かったが「テレビに出て試合に出ないとか、あり得ない」と強行出場し「5年ぶりの国内大会。あの状態で準優勝は『俺まだまだやれるな』と自信になった」という。

負傷再発で「限界を超えた」ほどの調整の後、休む間もなく全日本へ向かう。初戦の相手は90キロ級の田中大勝。4階級上だ。18年大会では100キロ級の石内裕貴に敗れ「(体格差の)対策は、しても通用しない」ことも身に染みて分かる。

柔よく剛を、小よく大を制す、の時代は今は昔。足取りや旗判定がなくなり、軽量級の勝ち目は極めて薄い。それでも「得意の足技や組み手で翻弄(ほんろう)したい。(大野)将平先輩の次に登場する組み合わせも最高。『自分の柔道を出し切る』ってコメント、つまらないなと思っていたけど、今回は本当にその心境」と高藤の柔道を貫く。

◆軽中量級の挑戦 過去の全日本選手権では64年東京五輪の中量級(当時80キロ以下)金メダリスト岡野功が67、69年大会を制したことがある。92年バルセロナ五輪71キロ級金メダルの古賀稔彦は90年大会で決勝進出も95キロ超級の小川直也に敗れた。94年大会ではバルセロナ78キロ級金の吉田秀彦が準優勝。準決勝で小川に旗判定で勝ち、決勝で金野潤に負けた。近年は立った状態で帯から下をつかむ足取りの禁止など小柄な選手に厳しい条件となっている。予選を勝ち上がるのも難しいが、世界選手権や五輪の優勝者は推薦出場できる。