壮絶な涙がこぼれた。数多くの現場に足を運んだが、この種の涙は初めて見た。
「もう日本人同士、戦わなくて済む…」。19年暮れの中国・鄭州。アスリートの夢、自国開催の東京五輪出場権を懸けた選考レースで、平野美宇(23=木下グループ)が中国選手に敗れ、石川佳純(30=全農)のシングルス代表が決まった瞬間だった。
1年間の選考レースは最終戦までもつれる僅差に。戦友であるはずの平野。しかも8歳下の後輩の敗北で、自身の代表権獲得を喜ばなくてはならない苦しみがにじみ出た。時間をおいて取材に応じた平野は、悔し涙が止まらなかった。
21年東京五輪。2人は団体戦でダブルスを組んだ。2年前のわだかまりはない。決勝で中国に敗れるも3大会連続となるメダルを獲得し石川は「10年間トップレベルで続けて来られた。少しは自分を褒めてもいいのかな」と今度は達成感の涙を流した。
東京五輪前。インタビューで引退後の未来についてこう語っていた。「指導を受けたことがない子の卓球を始めるきっかけをつくりたい。もちろん既に頑張っている子にも。47都道府県で卓球教室をやりたいんです。何年かかってでも」。ああ、あの時の未来に石川がたどり着いたんだなと、引退の一報を聞いて思った。【18~21年卓球担当=三須一紀】


