<大相撲初場所>◇9日目◇17日◇東京・両国国技館

 大関把瑠都(26=尾上)が日馬富士との大関対決を制して1敗を守った。素早い相手の攻めに一時は土俵際で腰が落ちかけたが、立て直して強烈な押し倒し。勝ち越しを決め、「エストニアの怪人」が悲願の初優勝に望みをつないだ。横綱白鵬(25)も豊真将(29)にヒヤリとさせられたが、突き落として初日から9連勝とした。琴欧洲(27)も1敗をキープした。

 支度部屋での第一声は「あぶね~」だった。把瑠都が冷や汗をかいた。過去8勝9敗と負け越していた日馬富士の速い動きに後手を踏んだ。突き放しにかかるも芯を外され、土俵際でのど輪を食らった。

 右足が徳俵にかかり、腰が落ちた。左足も浮いた。絶体絶命。負けた!

 そう思われた瞬間、常人離れした下半身の踏ん張りで残った。この場面、どの筋肉を使ったか、との問いに陽気な怪人は「耳の筋肉だと思う」と笑わせた。

 命拾いすると、今度は背筋力300キロ以上という上半身の怪力で、130キロの日馬富士を1メートル以上吹っ飛ばした。執念の逆転で初日黒星から8連勝。「相手が軽いからまわしをやりたくなかった。(押し倒しは)びっくりした。足が滑ったんじゃないの?」。

 欧州の相撲伝道師だ。04年に来日。大関まで上りつめた。しかしいまだに母国エストニアでは相撲への認識が不足。把瑠都も「壁に頭からぶつかれ。日本でみんなやってる」と間違って伝えられた稽古を繰り返したことがあった。昨年10月にはまわし100メートル(大人15~16人分)と3枚の相撲マットを関係者を通じて日本から届けた。総額は約100万円。角界入りに尽力した国際相撲連盟理事の倉園一雄氏(54)は「(把瑠都は)相撲をヨーロッパ全域に普及させたい気持ちが強い」という。

 そんな願いを実現させるためにも、初優勝がほしい。打倒白鵬の1番手とされるものの、大関以上でただ1人V経験がない。年頭には「今年は優勝。それだけ」と誓った。琴欧洲と並んで1敗で横綱を追走する。「まだ先は長いんで」と平静を装ったが、賜杯への意欲は相当なものだ。【大池和幸】