大相撲で昨年秋場所前に引退した元大関把瑠都のカイド・ホーベルソン氏(29=尾上)の断髪式が8日、東京・両国国技館で行われ、横綱白鵬(28)ら約230人が参加した。けがで惜しまれつつ引退した「エストニアの怪人」は、母国でロッジを経営するかたわら、子どもたちに相撲を教えながら、日本とエストニアとの懸け橋を目指す。

 7年間、連れ添った金髪の大銀杏(おおいちょう)と別れを告げる日。朝起きると辺り一面、白銀の世界だった。「エストニアもずっと雪。雪が降って、めちゃくちゃうれしかった」。母国と同じ風景が目の前に広がった。まるで、新たな人生を祝してくれているかのように思えた。その“良き日”に、桁外れの怪力とちゃめっ気たっぷりの性格で愛された元大関把瑠都が、最後の務めを果たした。

 横綱白鵬ら約230人が参加した断髪式。いすに座った目の前には、12年初場所の優勝額があった。少しずつよみがえる思い出。エレナ夫人と母ティナさんがはさみを入れると、目はうるんだ。最後に師匠の尾上親方(元小結浜ノ嶋)が止めばさみを入れると、涙が流れた。「(涙を)おなかの中に止めていたけど、最後は止まらなかった」。

 今後は「懸け橋になりたい」と、日本とエストニアを行き来する。自宅から車で10分ほどの場所には、自らも育った相撲道場「SAKURA」がある。ロッジを経営するかたわら、恩師がいるそこで自身も指導にあたるという。「強いだけじゃダメ。すぐあきらめるのもいるから。心もね」と“把瑠都2世”を育てる。

 07年夏場所でようやく結えた大銀杏を切り落とした後、新しく整えられた髪形を見て「格闘家みたい」と笑った。「慣れるまでちょっと時間がかかるかなぁ」。「エストニアの怪人」は大雪の日、まっさらな気持ちで、新たな人生を踏み出した。【今村健人】