ファームとはいえ、1軍の戦力を整えるのを最優先とする。チームも一企業である。会社の運営を考えた場合、収入を左右するのは観客動員数であり、1軍ペナントレースの勝敗が大きなカギを握っている。お客さんが一番喜ぶのはチームの勝利であり、1軍主動は当然の企業努力だが、同じくしてチーム作りの原点もファームの仕事だ。同時進行。理想ではあるが「二兎を追うものは、一兎をも得ず」のことわざがあるように、2つの方針を抜け目なくクリアしていくことは簡単なことではない。さあ、どうする。今季から新たにその重責を背負った阪神古屋英夫2軍監督を直撃してみた。

 今年の阪神は大掛かりな補強はしていない。新戦力はファームの若手を育てていく以外にない。1軍戦力の整備と若手の育成の両立を考えたとき、どちらに重点を置くか。考えれば考えるほど矛盾を感じるのは私だけだろうか。

 「若手の育成を、7のぐらいに考えた方がいいと思っています。1軍からおりてくる選手はある程度の力は持った選手ですから…」

 古屋監督の話を聞いて安心した。本人が努力に努力を重ねて主力の座を築いてきた選手。1軍に昇格して頑張っている選手は「自分で自分を育てた選手」だという。本人が直接体験してきたことで、確固たる信念を抱いているから出した結論だ。

 己に妥協せず、自分を厳しく鍛えてきた選手は心、技、体いずれも強い。同監督が待ち望むのはこうした強い選手であり、確かによく考えてみると毎試合、毎試合2つの方針を使い分けながらゲームを開催するわけではない。普段は特別な事を意識する必要はない。若手育成に重点を置き、自分ではい上がってくる選手が育てば申し分ない。

 「当然メニューは我々で作成していますが、今年は体力に余力を持って練習を終わるようにしています。選手は自分で自分を育てなさいと言ってあります。自主練習をやるための方針ですが、間違ってもらって困るのは、あまやかしの放任ではないということです。ゲームは1対1の勝負で、誰も助けてくれません。コーチの指示待ちではこの世界でメシは食えません。秋に寂しい思いをするのは自分ですから。個人の練習でも、ノックを受けたいなら、自己申告してくるように伝えてありますし、みんな目の色を変えていますよ」(古屋2軍監督)

 プロの選手である。プロである以上、自分で努力するのは当たり前、自主性は自分で責任を持って行動する。ある意味やらされる練習より、自分でノルマを課してする練習の方が厳しい。

 昨年までファームは、厳しさを方面に出して指揮を執ってきた平田前2軍監督(現阪神1軍ヘッドコーチ)だったが、今季は温厚な性格の古屋監督へとバトンタッチされた。

 昨年末ではどちらかといえば監督をはじめとした首脳陣が、選手をぐいぐいと引っ張っている印象があったが、今年は自主性。監督によって、若干の違いはあっても古屋監督の方針が少しずつ浸透しているようだ。

 各選手よく練習するようになった。夜間練習も若い選手が自主的に参加している。昨年、このやる気が平田ヘッドの気持ちを動かし、夜食が出るようになった。食べ盛りの若手は今年も大助かり。「現在はコーチが必ず1人居残って夜間練習に目を光らせている」(高木寮長)ようで、鳴尾浜に居るときは連日夜遅くまで打球音が室内練習場に鳴り響いている。「この世界、3年までにある程度の方向性が出る」と見ている同監督は、1軍監督以外の2軍監督、1、2軍のコーチにスカウトまでの体験を積んだ豊富な経験の持ち主。今シーズンにはいって固定した1番センター横田は、将来性を高く評価している同選手に少しでも多くの打席数を与えることが、チームとっても大きな財産になる。「投手との間合いは打席に立たないと覚えられない」。そう古屋監督は説明した。今シーズンの阪神、ファームから何人の若手が1軍に昇格するか―。3月30日、7試合を消化した時点で3勝3敗1分け。結果はすぐに出るものではないが、今季の鳴尾浜は目を離せない。