先日、ヤボ用があって鳴尾浜球場を訪れた。チームは1、2軍とも遠征中。残留者はいたもののわずか。昼間、人の子一人いない。ガランとしたグラウンドを眺めていると、ふと、何やら寂しさを感じた。主(選手)が留守中の球場に違和感を抱いて帰途についたが、今回は試合(社会人との交流戦)当日に取材で足を踏み入れてみると、グラウンドでは選手が所狭しと走り、打ち、守っている。スタンドにはファンが詰めかけている。やはり活気があっていい。これが私のイメージの中の球場だ。いつもの雰囲気にホッとした。グラウンドはユニホームを着た選手がいて映えるもの、そんな己をよくよく振り返ってみると、小学生の高学年から野球に携わっている。御年5月で“77歳”の人間が、少々歪になっていないか考えさせられてしまった(ニガ笑い)。

 自分のことなど、どうでもいい。そんなことより取材だ。さてっとー。沖縄キャンプを思い出した。我々、OB会役員で陣中見舞いに訪れた。その夜、四藤社長はじめ、金本監督らと一緒に会食した。席上の質問でキャンプに多数参加していた若手について同監督は「まだ、まだ。そう簡単に1軍の試合というわけにはいきませんよ」の評価をしていたが、高山、横田、北條、江越等は現在立派にチーム(1軍)の勝利に貢献している。監督の評価からすると、その後の彼らの努力は見上げたものだが、実をいうとキャンプでの紅白戦シートバッティングで先の選手達以上に目立っていたのが、今回このコーナーに登場する陽川尚将内野手(24)だった。

 右の大砲候補。持ち味のホームランは出る。しぶとさも見せた。まだ若い。真面目な性格。ひとつ、ひとつのプレーははつらつとして元気がある。首脳陣の注目度はかなり高かったが、わからないものだ。若い選手の本当の真価を見極める他チームとの実戦(オープン戦、練習試合)プレーにはいって、ガタッと調子を落とした。疲れからか、それとも意識過剰からか、もがけば、もがくほどドロ沼にはまっていく。実力の世界だ。こうなったときに待ち受けていることは、およその見当はつく。ファーム落ち。「あのときは、正直いって悔しかった」が、現実は受け止めざるを得ない。まだ、一緒に練習をしていた同年代の何人かが1軍に残っている。自分が悪いのはわかっていても腹が立つ。大半は自分自身への腹立ちだが、この気持ちが己を前向きにしてくれる。

 「悔しかったのは確かですが、それでも、あの時点では1軍の公式戦開幕までは日にちがありましたので、開幕1軍はあきらめていませんでした。結果はダメでしたし、現在の調子もまあまあですかねえ。でも、4本のホームランはしっかりスイングができていましたので打てたホームランです。4番ですか……。チャンスでまわってくることが多い。そこで得点できるかどうかはチームの士気にも関わりますので、なんとかランナーをかえすバッティングを心掛けています」

 陽川にも意地がある。目下ウエスタン・リーグ公式戦の全試合に出場。打線の中心“4番”に座っての成績は49打数、15安打、4ホーマーを放って11打点。打率は.306。昨年の1シーズンで放った3ホーマーはもう、この時点で追い越している。他にも独立リーグとの試合で1発たたき込んでいるし、社会人との交流戦では2試合行っていずれのゲームでもタイムリー打を打っている。交流戦後は特守が待ち受けていた。藤本コーチのノックで右に左に動きまわり、ときにはタイビングキャッチ。間違いなく成長している。「今年はなんとか1軍のグラウンドに立ってみたい」(陽川)執念が実るか。現在三塁を守っているヘイグしだいではありうる。掛布チルドレンの1人。最後に同監督に締めくくってもらった。

 「まだ、捉えるべき球をしっかり捉え切れていない。だから、打ち損じもある。やっぱりストレートをしっかり捉えられるようにならないとね。4番ですか……。はずすつもりはありません。4番を打つ重みを感じることによって、上(1軍)へいってもプラスになるはずですから」

 大きく育てようとしている。OBとしても期待にこたえてほしいね。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)