光り輝くはずだった宝石の原石がやや色あせてきた。阪神の現状である。ファームには2つの貯金はあるが、肝心の1軍は戦力の低下で借金生活になってしまった。開幕当初は“超変革”のスローガンを掲げて起用した若手が目いっぱいの力を発揮。江越、横田、高山、陽川などのはつらつとしたプレーがチームを引っ張り勝率.500ラインをキープ。先が楽しみなレース展開をしていたが、6月に入ってペースダウン。力不足の露呈は初めから計算していたとはいえ、若手が誰も体験する分厚い壁にぶち当たり、今、まさに、生みの苦しみを味わっている。

 当然だろう。掛布監督の目には「若い選手が1軍で活躍して、レベルアップしたかというとそれはないです。ファームにおりてきた選手を1軍レベルから見てみると、まだその域には達していません。だいいち、アウトのなりかたがなっていない」としか写っていない。要するに、自分のペースで戦っていない。相手ペースのままいいように牛耳られているのだ。新聞紙上だけの報道を見ていると、まるで、そのままレギュラーどりをもしかねない評価をされているが、とんでもない。まだまだシーズンを通してコンスタントに力を発揮するまでには時間が必要。チームの現状は当然の姿なのだ。

 現在、ファームにおりて頑張っている陽川は「1軍と2軍のレベルの違いを感じました。ストライク、ボールの出し入れとか、スピード。ファームとではかなりの差があります。いい経験をさせていただきましたし、力の差がわかったのが収穫です」と、より一層の気合いを入れている。横田にしても「1軍のレギュラークラスの人のバッティング練習を見ていると、ピッチャーが投球する球のほとんどをバットの芯でとらえています。実力の差を感じました。これからは打って、打って、打ちまくります」。確かにレギュラーは、10本打てば8本ぐらいはバットの芯でとらえている。着眼点はいいが、これら若い選手が急成長するのはむずかしい。でも、1軍昇格は身近になった。打開策は……。弱肉強食の世界。今、鳴尾浜が熱い。見通しは明るいと見た。

 苦しい状況の中にも実にタイムリーな出来事があった。坂井オーナーをはじめとする球団首脳と1、2軍両監督とのヒアリングだ。6月18日が金本監督。同27日が掛布監督。食事をしながら現状、今後のチーム作りを中心にした話し合い。厳しい状況に陥ったときのフロント-現場の意見交換。球団からのバックアップを肌で感じることができるし、ストレスの溜まった監督の癒しになる。オーナーとの腹を割った話し合いは、精神的にも新たな気持ちで目標に向かって進める。

 親会社が本腰を入れてチーム作りに参加している証しだ。チーム作りに関して言うと、以前はフロントと現場にはかなりの温度差があった。オーナーと監督が席を同じにするのはシーズン終了の報告をする時ぐらいのものだったが、「三顧の礼」を尽くして招き入れた野村克也監督以来、方針はガラッと変わった。シーズン中であっても何回か話し合っているし、当時広報をしていた私の方から本社へお願いしたこともあった。時にはこんなことも--。

 「本間よ--。オレ、今、オーナーを怒らせてしもうたけど大丈夫かなあ。チーム作りの話をしている中で『オーナーは監督を代えた方がいいチームができると思っていませんか』とたずねたら『そうや』言うから。ついこっちも語気を強くして『だからダメなんですよ。中心になる選手は1年や2年で育ちませんから』と言ったら、気分を悪くされたようで」

 笑っていた。たいしたことはなかったようだが、現場の意見をまともにぶつけてくれるのは大いに結構。そのあとは星野仙一監督が引き継いでくれた。2003、2005年優勝の原動力となった金本現監督(当時広島)を獲得したのは、その一連の流れからだ。現在も福留、西岡がいる。そして、若手の北條、高山がいまだ頑張っている。力をつけた証しであり、原口は5月度の月間MVPに輝くなど期待以上の活躍をしている。現時点では中谷が猛アピール中。フロント-1軍-そして、鳴尾浜が一体となれば、まだ遅くない。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)