新入団会見を行い声の大きさをアピールする片山(2018年12月3日撮影)
新入団会見を行い声の大きさをアピールする片山(2018年12月3日撮影)

野球が好きである。張り切りボーイである。ポテンシャルは高い。野球に取り組む姿勢が現状を物語っている。今季、育成枠で入団した新人でありながら、5日、鳴尾浜球場で行われたウエスタンリーグ公式戦で“4番"に抜てきされた。阪神片山雄哉(24=BC福井)である。

開幕して12試合目。早々と打線の軸に座ると期待通りバットで勝利に貢献した。並の新人ではない。育成枠というからなおさらだ。ソフトバンクとの3連戦、初戦スタメンマスクをかぶって最後まで扇の要を守り抜くと、次の試合ではDHで、3戦目は再びマスクをかぶってフル出場。チームを同カード3連勝に導いた。

片山の活躍、確かに想定外かもしれないが、平田勝男2軍監督が「使ってみたくなる選手。心を動かされるよ」と言うように、ユニホームを着ているときの生き生きとした表情はまさに野球少年。野球好きは無名の刈谷工(愛知)から独立リーグの門を叩いたことで証明される。「はい、野球は好きです。野球をやりたいからBC福井に入りました」(片山)。

目指すプロ野球に少しでも近いレベルで力をつけてきた苦労人。やっと念願かなってやる気満々に。元気者は「元気は僕の取り柄ですから」と1月の新人合同自主トレから大きな声を出し、歯を食いしばって頑張っていた姿が印象に残っている。決して想定外とは言えない。

高いポテンシャルは今回のソフトバンク3連戦で実証した。いずれも4番にドッカと座って、13打数5安打3打点2本塁打は見事というほかない。特に初戦など初回に先制の左越え二塁打を放つと、さらに右前打と2号本塁打をたたき込んで、最終打席で三塁打が出ようものならサイクル安打を記録するところだったが、プロはそんなに甘い世界ではなかった。結果二ゴロ。新井良太バッティングコーチは「バッティングセンスはいいですねえ。あのホームランなんかでも、バットが内から出ているから、スムーズにいい感じで振り抜けていますもん」と見ている。今シーズンの成績は9試合に出場して28打数12安打で打率はなんと4割超えの4割2分9厘(8日現在)。ホームラン3本は江越と並んでチームトップである。バットの振りは鋭い。

私から「目指すは打てるキャッチャーかな」と向けてみると、即座に返ってきた返事は「僕は勝てるキャッチャーになりたいです」だった。そこで山田勝彦バッテリーコーチに“捕手片山"について聞いてみた。「BCリーグを経験していますし、キャッチャーとしてのノウハウは持っていますので、こちらの言うことを理解するのは早いですね。飲み込みが早いです。まあ、現状は新人ですので、あまり色々なことを詰め込むのは良くないと思いますしね」の期待を寄せている。

片山も「山田さんには毎日シゴかれています」と笑顔。言葉とは裏腹に感謝している様子。そういえば山田コーチは、つい先日甲子園球場で行われたセンバツ高校野球で優勝した東邦(愛知)の出身で同県人。気が合うのかも。

「勝てる捕手」発言。なかなか頼もしい存在だ。キャッチャーとは-。野村克也元監督いわく「守りにおける監督の分身」だという。かなりの重責を背負ってのゲームに違いないが、新人片山にはまだそこまでの重圧はかかっていない。現状は目の前の一つ一つのプレーに精一杯。集中して取り組んでいるのがやっと。いずれはこの経験が成長に結びつく時が来る。「これから、まだまだやることはいっぱいありますが、やはり、まずは支配下選手ですから。その目標には一歩ずつではありますが進めていると思います」というまなざしは真剣そのもの。目は輝いている。私の予感では支配下選手への道程は近いと見た。

冷静沈着であること。1球の恐ろしさを知ること。配球には根拠をもってリードすること。洞察力を身につけること。当然、相手を知り味方も知ることも捕手の条件。何事も貪欲に吸収すること。昨年の日本シリーズでMVPに輝いたソフトバンク甲斐拓也捕手も育成からはい上がった選手だ。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)

新人合同自主トレの3000メートル走を終え引きあげる片山雄哉(左)ら(2019年1月10日撮影)
新人合同自主トレの3000メートル走を終え引きあげる片山雄哉(左)ら(2019年1月10日撮影)