オリックスがまだオリックス・ブルーウェーブだったころの01年か02年だったと思うのですが、鹿児島遠征に同行したときのことです。

 普段はあまり試合をしない地方での開催ということもあり、移動日で鹿児島入り。その夜、谷佳知選手と外出することになりました。谷は派手なタイプではなく、本拠地球場のある場所ではあまり出掛けませんが、そのときは地方ゲームということもあり、原稿を書き終えるのを待ってもらって、街に出ました。

 入ったのは知り合いに紹介してもらった黒豚のしゃぶしゃぶを食べさせる店。90年代中盤、オリックス黄金時代に担当記者だった私ですが、当時は広島担当から大阪本社に戻っての遊軍時代。谷の状態、最近のチーム事情などを話しながらおいしく食べました。

 さて、店を出た後のことです。ほとんどの男性諸氏は分かるでしょうが、そういう場合、そのままホテルに帰ることは少ないもの。

 ぶっちゃけ、スナックでもクラブでも、なんとなくそういうところに足を向けることが多くなります。

 久しぶりにゆっくり話すせっかくの機会なのに食事だけで終わるのはもったいない。とはいえ、男同士で夜にカフェでお茶というのもなんだし、もちろんバーでもいいのですが、谷もそんなに飲まないし、私もまったく下戸なので、それも結構、難しい。

 適当にお店の女性としゃべりながら水割りをなめるのがこういうときの基本パターン。別になんとしても行きたいとか、絶対行きたいとか、行かざるを得ないとか、そういうことではなく、フツーに行きます。今風の若者は知りませんが、昭和の男性諸氏ならそのへんの空気をご理解いただけると思うのですが…。

 ところが谷は言うのです。

 「申し訳ないですけど、そういうところには行きません」

 当時、田村亮子さんとは既に交際中でした。私も知っていましたが、しかし、そういう店にいくことが何かの問題になるとは考えにくい。

 それでも谷は「女性のいるところはやめときましょう」と譲りません。

 堅いヤツだなと思うところもありましたが、そのキッパリした態度に少し感動のようなものを覚えたのが忘れられません。

 巨人にトレードする直前も、巨人移籍後も食事はしましたが、その態度は不変でした。

 女性が男性の魅力にあげる「誠実さ」という言葉。プレーでも、実生活でもそれを体現した男が谷佳知だと思います。

 現役生活、お疲れさまでした。機会を見て、また誘いたいと思います。食事だけね。