キャッチボールのできる場が少ない-。日本の野球環境が問題視される中、12球団ジュニアトーナメントに出場する、スーパー小学生たちの周囲も例外ではない。昨年12月末に開催された第11回大会に出場した選手に聞いた。(敬称略。選手はすべて6年生)

(2016年1月16日付紙面から)


 阪神Jrの背番号4、勝田成内野手は身長135センチ、体重35キロと大会最小兵。大人びた選手が並ぶ中、ひときわ目立つサイズだ。それでも、背番号が物語るように堂々のレギュラー二塁手。楽天Jr有銘コーチは「勝田くんは守備うまいなあ。動きがいい。小さいのに選ばれるだけあります」と、うなっていた。

 大会の感想を問うと勝田は「自信になりました。僕は背が一番小さいので、僕が選ばれたことで、みんなにも出来るんだということが示せたと思う」と言い切った。「学校でも一番背が小さい」と話す少年は、大きな使命感を胸に秘めていた。

 サイズを補うのが守備力だ。持ち味は? と聞けば「フィールディングです」と即答した。大阪の中心部に住む勝田の周囲は、野球の関心が薄いという。放課後は1人で壁のあるグラウンドに向かう。「キャッチボールする相手がいないので、1人で壁当てしてます。みんな野球はやらないです。だからいつも1人で壁当てしてます」。阪神上本に少しでも近づきたい。そう思って黙々と壁にボールをぶつけ、ショートバウンドをキャッチする。日々の遊びが、グラブさばきを磨いていた。

 女子選手には兄弟がいるケースが多い。オリックスJr小沢響子投手は、12月27日の阪神Jr戦で1回1失点ながら先発した。地元京都ではエースで「打順は4、5、6番」を任されている。4歳上と2歳上。2人の兄がいて、1年生から同じチームで野球を始めた。「顔が格好いいから」日本ハム大谷が好きな小沢は「野球好きです。バッティングとか、守備とか、楽しいです。自分に向いている」と話した。

 日本ハムJrの菊池さくら投手は同28日の中日Jr戦、1点追う最終回の7回2死から代打で左前打を放った。こちらも、兄と同じチームで1年生から野球に親しみ、地元では「打順は1から3番」。弟2人も同じチームで、家のテレビは野球中継が多い。同じ左腕の日本ハム宮西のファン。「周りの女の子は大谷より巨人坂本が好きですね」と言う。野球の魅力を「苦しいところを、みんなで乗り越えて、1つの勝利をみんなで味わうところですね」と指摘した。

 遠くから参加する選手もいる。楽天は東北6県で選考会を実施しており、各県から選手が集まる。楽天Jr山谷(やまや)謙之信投手は青森・五所川原から仙台の練習に参加した。10月初旬から毎週のように土曜日は、父の運転する自動車で4時間移動。「9時集合だと、3時に起きて4時出発です」。「4年生の時から(楽天Jrに)選ばれたいと思っていた」から、早起きも苦にならないという。

 ソフトボール投げ91メートル55を誇る西武Jr野中駿哉外野手は、群馬・桐生在住。父の克哉さん(48)は「桐生ですから、プロ野球がなかなか来ないですよね。今回のようにプロの方に教えていただけるのは、ものすごい刺激になってます。新しい仲間との出会いも、すばらしい経験です」と、プロと接する機会に感謝していた。

 野球振興で大事なのは「場」であり「機会」。大会の認知度も高まっている一方で、四国や北信越の子どもをカバーしきれていないのも事実だ。過去には沖縄から首都圏のジュニアチームに週末ごとに通って参加した選手もいたという。プロとの接点が、12球団の枠組みを超えて、もっと広がり、増えるといい。【金子航】