東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の影響を受けた福島県双葉郡の人材育成を目指し、今春開校した県立ふたば未来学園高校(同県広野町)の野球部が、夢の甲子園へ「最初の1歩」を踏み出す。今夏の全国高校野球選手権福島大会(7月9日開幕)の組み合わせ抽選会が18日、郡山市で行われ、初戦は南会津との対戦が決まった(日時と球場は19日発表)。初心者含む選手11人は全員1年生。遠藤和明主将(15)は「1勝が目標。2年後には甲子園に出場できるチームに」と大きな夢を掲げた。

 遠藤主将は緊張した様子で抽選会に臨み、南会津が対戦相手に決まると、一層表情を引き締めた。4月に開校した学校で、発足したばかりの硬式野球部。甲子園を目指す地区大会初戦が、初の「公式戦」だ。

 遠藤主将は「チームの持ち味は、元気。1年生らしく全力でぶつかりたい」と述べた。対戦相手には3年生もおり、力の差は認める。楢葉町出身で、避難先の会津美里町の中学で野球を始めた。捕手で、「充実した野球の練習ができる」と、ふたば未来のトップアスリートコースに入学したが、野球部を目指したのは2人。部の創設へ2人でクラスメートに声を掛け、試合に必要な9人を確保。連合チームでなく、単独での大会出場が可能になった。

 初めての「夏」へ、そろった部員は16人。男子11人、女子2人、女子マネジャーが3人だ。完成したばかりのユニホームの胸には、「Mirai」の文字。初心者もおり「練習は基礎の基礎から」という。学校に近い広野町のグラウンドや楢葉町のならは球場に通い、毎日練習。1日3~5時間、空き時間にも自主練習する。先月、初の練習試合でいわき海星と対戦した。4-9で敗れたが、点を取ったことで手応えはつかめた。戦績は2戦2敗だ。

 「勝てるチームになるには、まだまだ」と話すのは、97年春のセンバツで平工(いわき市)を初出場に導いたことがある荒峰雄監督。「初心者の生徒は吸収力が速い。忘れるのも速いが、教えがいがある」。初の1勝を頂上に例えれば、チームの現状は「2合目」。それでも「1合目から2合目に進んだ。練習でやったことが、1つでも2つでも生かせれば」と、話す。

 入学式で、夢は「甲子園出場」と書いた遠藤主将は「2年後には、甲子園に出場できるチームにしたい」と話した。大きな夢を胸に、ナインは未来への第1歩となる夏に臨む。勝利は、復興への歩みにも連なるはずだ。【中山知子】

 ◆ふたば未来学園高校 双葉郡8町村の子どもたちの教育の復興を目的に、今年4月8日に開校。1期生152人。科目群は(1)アカデミック系(進学に必要な科目)(2)トップアスリート系(スポーツの技術習得)(3)スペシャリスト系(農業、工業など)の3つ。部活動は運動、文化系で計11。校歌は秋元康氏がプロデュースし、各界の第一人者17人が「応援団」として行う特別授業もある。文科省の「スーパー・グローバル・ハイスクール」にも選ばれた。現在は広野中の校舎を使用、19年に新校舎に移る。中高一貫校として同年の中学校併設も目指す。

 ◆双葉郡内の県立高校の経緯 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生前、双葉郡(8町村)内には双葉高(双葉町)富岡高(富岡町)双葉翔陽高(大熊町)浪江高(浪江町)浪江高津島校(浪江町)の5校に計1500人の生徒がいた。全生徒が避難を余儀なくされ、11年5月から避難地域以外の県立高校の空き教室などで「サテライト方式」の授業を実施してきた。昨年度の5校の生徒数は計337人まで減少した。本年度からふたば未来学園が開校し、5校は募集停止。現在の2年生が卒業後の17年4月に休校予定。

 ◆第97回全国高校野球選手権福島大会 78校が参加し、7月9日開幕、同24日決勝(午後1時開始、県営あづま球場)。9年連続優勝を目指す聖光学院、日大東北、いわき光洋、磐城、東日本国際大昌平、福島商、光南、学法石川がシード校。