第89回選抜高校野球大会(3月19日開幕、甲子園)に21世紀枠で出場する不来方(こずかた、岩手)のエース小比類巻圭汰投手(2年)が28日、聖地での初球に「直球を投げる」と宣言した。発表から一夜明け興奮冷めやらぬ中、気持ちはすでに甲子園へ向いている。いみじくも野球漫画「ドカベン」でも、同じ岩手代表の弁慶高校が予告投球を行い、明訓高校を倒している。

 “不来方フィーバー”から一夜明け、既に小比類巻の血はたぎっていた。「自分らしさを前面に出したい。初球は真っすぐで。コースはざっくり外、とりあえず思いっきりいきます」。前日27日にはLINEやツイッターでの祝福が約400件ほど殺到し「昨日は疲れて9時ぐらいには寝ました」と言いながらも、甲子園のマウンドでのイメージを明確に膨らませていた。

 「初球予告ストレート」は同郷の“先輩”をほうふつとさせた。野球漫画「ドカベン」に登場する岩手代表・弁慶高校のエース義経光は、主人公山田太郎擁する明訓高校との対戦前に「第1球、ど真ん中のストレートを投げる」と宣言。この奇策が功を奏し、春2度、夏2度の甲子園優勝を果たす明訓高校に唯一の土をつけ、ドカベン史上最大の衝撃を与えた。

 弁慶高校について聞かれた小比類巻は「ドカベンを読んだことないし、よく分からないですね」と苦笑いするしかなかった。だが、小比類巻が直球に自信があるのは間違いない。最速136キロの直球で押しまくる強気の投球が真骨頂だ。12月からは体作りに専念し、昨秋から8キロ増の76キロまで成長している。「もっとスピードは出ると思う」と自己最速の更新にも自信を見せる。

 弁慶高校と同じく、大金星を挙げる。「やらなきゃいけないな、と思っている。(自分たちを)見ている人はいっぱいいる。感謝の気持ちを伝えなきゃいけないというのが一番にある」。出るだけじゃ駄目、勝つしかない。そう思えたからこそ、導き出した答えが「初球ストレート」だ。雪深いグラウンドで、不来方の大黒柱は大甲子園を心待ちにしている。【高橋洋平】

 ◆漫画「ドカベン」明訓高校対弁慶高校 山田が高2夏の甲子園2回戦で激突した。戦前、エース義経の予告(初球ど真ん中ストレート)に乗った明訓が本来4番の山田を1番に変更。予告通りに投じられた初球を山田が先制本塁打したが打順変更のあおりを受け打線が沈黙。同点の9回に併殺を狙った送球を弁慶の主砲・武蔵坊数馬が額でブロック。殿馬が本塁に投げるが走者義経が「八艘(はっそう)飛び」で捕手山田のタッチをくぐり抜けサヨナラ勝ち。山田が明訓で喫した唯一の敗戦だった。