<高校野球秋季北海道大会:北照4-3札幌一>◇9日◇決勝◇札幌円山

 北照が春の全道、夏の南北海道大会初戦敗退から、はい上がって秋の王座に返り咲いた。札幌一を延長10回で下し、2年ぶり4度目の優勝を果たした。左腕エースの大串和弥(1年)が、粘りの投球で札幌一打線を6安打3失点に抑えて完投。3回戦の旭川工、準決勝の北海、そして決勝の札幌一と強豪校を次から次にねじ伏せた。来春のセンバツ(12年3月21日開幕、甲子園)出場を確実にした。

 最後の打球は大串が差し出したグラブの下を抜けていった。振り向くと主将の佐藤星七(せな)遊撃手が回り込んで二塁ベースを踏んだ。134球、ピンチにも淡々と投げ抜いた1年生エースは、両手を思いっ切り空に向って上げた。和田紘汰捕手と抱き合って喜ぶと佐藤主将らが駆け寄り、あっという間に歓喜の輪ができた。

 少し涙を浮かべた河上敬也監督(52)は、大串としっかり握手した。「相手も投打に優れ、いい試合ができました。今日は大串と心中する気で戦いました。よく粘り強く投げた」と指導歴31年のベテラン監督は健闘をたたえた。大串は「落ち着け、焦るな、皆が守ってくれるとピンチでは何度も自分に言い聞かせて投げました。勝ててホッとしました」と試合を振り返った。

 中1日で3試合目の登板。疲れもあって決して調子は良くなかった。3回まで毎回先頭打者を出した。2、3回と1失点。いつ崩れてもおかしくなかった。打たれながらも、のらりくらりと、チェンジアップ、シンカー、スライダーなどでタイミングを外した。9回には3-3の同点とされたが、延長10回表の勝ち越しの1点を守りきった。今大会は3試合に先発し、投じたのは107打者に350球。ついに優勝旗を手にした。

 南幌中3年の時に出場した全日本軟式野球大会(横浜)では、1回戦の米ノ津中(鹿児島)で熱中症にかかり、4四球で押し出しの1点を与えたが、最後まで投げきり、逆転勝ちに持ち込んだ。父栄治さん(46)は「おそろしい男です」と強い心を持つ息子に感心した。中学時代の指導者が教えた「笑顔を忘れないで投げなさい」の教えも忠実に守り続ける。この日もピンチには必ず、ほほえみ投球があった。

 夏の南北海道大会は初戦敗退。新チームは8月20日に「日本一努力できるチームをつくろう」を合言葉にスタートした。練習は泥臭い基本ばかりで、長いときは1日8時間にも及んだ。選手1人が夜、熱中症になるほどハードだった。そんなチームを支えたのが佐藤主将だ。「悔いなくがむしゃらにやろう」と、開会式の宣誓と同じ言葉で仲間を引っ張った。佐藤には母悦子さん(41)との約束があった。今年の母の日に手紙を書き、函館の実家に郵送した。「甲子園に連れて行きます」。その誓いを来春、果たす。

 夏の猛練習の成果を花巻東、智弁和歌山との練習試合でぶつけたがはね返された。「全国の力を肌で感じ取れたのが良かった。まだまだ練習が足りないと分かったはず」と河上監督。部員34人全員の上を目指す心が、札幌円山で花開いた。【中尾猛】